麗しき花実
初めてのレビューを書いて下さったSHIKI様ありがとうございます。私も毎日わくわくしながら新聞をひろげたものでした。ゆっくり読むべきと思いながらも待ちきれずに寝ぼけた頭で一気に読んでしまったものです。新聞の連載小説というのは本当に毎日の挿絵が贅沢ですね。ただ読み始めにはどんな素敵な物語が始まるのかわからないので最初からスクラップすることもできません。今回の本にあの挿絵が一枚も載っていないなんて余りにも残念です。理野をはじめ登場する女性達の生きる環境は、あたかも男性達の築いた塀の中の抑圧されたもののようでありながら、実は内面では強く自立しているさまが魅力的で、おんなが一人でどう生きるかという悩みの答えを探すような気持ちでも読みました。また理野が様々な技法を駆使して創作に打ち込む蒔絵の装身具がとても美しく描かれているのも楽しみでした。単行本では作中に登場した実在の人物が創った蒔絵の写真が掲載されているというので見てみたいと思います。やっぱり買うしかないかな。
生きる (文春文庫)
順調だった人生が崩れ、不幸の波が押し寄せる。けれども最後に救いがあり、味わい深い。久しぶりに読後の余韻に浸った。
第127回直木賞に選ばれた乙川優三郎(おとかわ・ゆうざぶろう)氏の「生きる」(文芸春秋刊)。3つの時代小説が収められているが、その表題作を紹介したい。
藩主の恩に報いるために「追腹(おいばら)」(=殉死)をせねばと覚悟していた男が、家老と密約を結んだために思いとどまる。事情を知らない人々にさげすまれ、その影響は家族にも及び、息子や娘の夫が自殺してしまう。体が弱かった妻も苦労の果てに亡くなる。娘は夫を失ったショックで気が触れてしまい、行方不明になる。
男は愚直なまでに密約を守るが、一方で次々に見舞われる不幸や周囲からの誹謗(ひぼう)中傷におののく。強く生きてゆく自信や気概が失せ、ついには病に伏せる。
〈どうせ恥辱に塗れたまま死ぬのだから、恨みつらみを吐き出してやろう〉。男は密約を迫った家老に宛てて手紙を書き始める。が、そうするうちに見えてきたのは自分の弱さだった。〈何もせず、ただ恐れ立ち尽くし、嵐が去るのを待っていただけではないか〉。男は尊厳を取り戻し、胸を張って生きるようになる。しかしその後も、男に対する中傷はやまなかった…。
物語は感動的な結末を迎える。その始まりと終わりを菖蒲(あやめ)が暗示する。
菖蒲は男の家で、幸運をもたらす花とされていた。その生育が例年になく遅れていることに、男は不吉な予感を持つ。果たして悲劇が始まる。結末近くでは、雨上がりの庭で、男が菖蒲を眺める。
メリハリに満ちているわけではない。1人の男の生きざまが淡々と描かれている。決して格好良くはない。それがかえって、さもありなんと思わせる。
現代に追腹はないけれど、理不尽と思えることに耐えなければならない局面はある。そんなとき、人は何を支えに生きてゆけばよいのか。示唆に富む秀作である。
世話焼き長屋―人情時代小説傑作選 (新潮文庫)
池波 正太郎 、 宇江佐 真理 、 北原 亜以子 、 村上 元三が並んでおります。
一作一作のレベルが高いので飽きません。
選者が優れているののでしょうか、
著者の個性が十分に堪能できます。
虚無を感じさせる池波正太郎、時代小説の骨格がしっかりした村上元三、人情ものの極みを行く北原亜以子、そして現在時代小説のトップに君臨する宇江佐真理。
あっという間にページが進みます。
本作の中では、人生観を描ききった北原の作品が読みどころかと思います。
お勧めです。
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