バッハ:音楽の捧げもの
リヒターのバッハ音楽にあるものは、執念の美しさだけだ。
しかし、それだけに他にない魅力と価値を持っている。
テクニックが異常に優れているわけでもないし、
ハーモニーの美しさだけなら、他の演奏者を取る向きもあるだろう。
まして、今や古いと切り捨てられがちなモダン楽器での演奏である。
しかし、安直に神とは言わないが、人間存在より高いものへ捧げるために
音楽を作り上げている感じが強く、あらゆる思いの緊張と収斂が、
心地よくも完璧な調和をともなって、ここに存在している。
他の盤とは、決定的に違うと思う。
むしろ非があるのは録音。トリオソナタのアレグロで、音の揺れが数箇所ある。
マスターの問題のようだが、本当に悲しい。エンジニアは、言えなかったんだろうな…。
傷があっても、星は5つにしたい。
モーツァルト生誕250年記念 エターナル:モーツァルト
ジョスカン・デ・プレやデュファイからショスタコや武満徹まで聴いた。
相当な時間を費やしたが、素晴らしい体験だった。もちろんすべてを聴いたわけではないけれども、たくさん素晴らしい曲に出会った。
緑輝く風景を想起させる音楽や、強い喜び、悲しみを思わせる美しい曲、
そして有名でない作曲家にも素晴らしい者がたくさんいる事を知ることができた。
そこで出した結論。
やはりモーツァルトだろう。
我々の聖人名簿の指定席にふさわしいのは、彼のほか考えられない。
聴くたびに新たな発見のある曲、飽きの来ない曲、心にしみる曲。
彼の作品にこそふさわしい、煌びやかな称賛の声。
「耳を不快にさせることなく、かつ熟練の音楽家にも楽しめる音楽」
モーツァルトはこう手紙の中で本物の音楽とはこうあるべきだ、と述べていたが、まさにその通りだ。
何度も聴いた曲なのに、ある日突然、新しい発見をすることが彼の曲ではしょっちゅうある。
「ここでこの楽器こんな音出してたんだ…」とか、そのたびに私は驚かされどおしだ。
そして、若いころ聴いていた曲がまた違うように聴こえて、ずいぶんと心に沁みる。
本物たる音楽のゆえんが少しでも理解できたかと思うと、また涙が出てくる。
モーツァルト:フルート四重奏曲全集
この曲は難しいと思います。技巧的には平易なのですが、フルートがソロ楽器になってしまうと全然面白くありません。曲想も華やかで典雅なのですが、若干深みに欠けるきらいがあります。解釈によっては薄味の演奏になりかねません。
さて、このCDですが、上記のこの曲の欠点を補って余りある演奏だと思います。二コレの引き締まったフルートの音色が滋味につながっています。そして、4人とも名手であり、室内楽にも精通しているのでしょう、程よく自己主張して程よく溶け合って、室内楽を聴く喜びを感じさせてくれます。お勧めの1枚だと思います。