韓国およめいり
2001年度NHKテレビ「ハングル講座」で生徒役をつとめていた阿部美穂子は、他の講座に出演している個性的なタレントたちに比べると(イタリア語講座の土屋アンナのようなどこかひねた感じがあるでもなく、中国語講座のはなのような凛としたきまじめさもなく)、ただひたすら元気でいつもニコニコしている女の子という記憶しかありません。ハングルに興味があるというよりは、「番組出演はお仕事のひとつ」という印象ばかりが残ったものです。
しかしその彼女が、番組の「卒業試験」でインタビューした韓国人サッカー選手と結婚し、韓国という個性的な世界でずっと生きていくことになったという話を聞いて、ちょっぴり見直しました。私の印象は単なる誤解だったのかもしれません。
本書はそんな彼女が韓国での生活を綴ったライトエッセイ。
正直なところ、29歳の彼女の文章力は中学生並みです。語彙力もかなり幼く感じられますし、「余談」を「予断」と書いたり(117頁)、「縦横無尽」を「縦横無断」と書いたり(190頁)と、もう少しなんとかならないものかと思わせるレベルではあります。
それでも最後まで読んでしまったのは、彼女がとにかく韓国人の夫をひたすら愛し、韓国の家族や友人を思いっきり慈しみ、そしてそんな彼女を多くの人が懸命に応援してくれている、その姿が心を打つからです。著者は、日本人に比べてはるかにアグレッシブな韓国人の価値観に驚きながらも、多くの友情と愛情に囲まれたおかげで「孤軍奮闘」することはありません。韓国と謙虚に健気に相対している彼女の姿はなかなか読ませます。
「私は韓国を知って、オッパに出会って、もっともっと自分が好きになりました」(207頁)。こんな風に素直に綴ることの出来る人生を送る著者は幸せです。
粋な素材を、技術は拙いけれども真摯に綴った結果、好感のもてるエッセイが出来上がった。そんな読後感を持ちました。
ソニーはなぜサムスンに抜かれたのか (文春新書)
韓国の有力紙「朝鮮日報」の社説・コラムから主に韓日関係をテーマにしたもの(1997年〜2010年)を選び出して訳出し、四つの章ごとに、著訳者である菅野さんの「解説」を加えた1冊。最初、記事の翻訳ばかりが続くので「手抜きではないか」と思ったが、記事が韓国におけるIMF危機とその克服、日韓共催ワールドカップ、韓流ブームといった時系列を辿りつつも、各編の並べ方に工夫があるようにみえる。これは単に「刺激的な記事」を列挙しただけではないのではと考え直して以降、一気に最後まで興味深く読み終えることができた。
サブタイトルにある「日韓逆転」のベースにあるのは、日本のやる気のなさ、向上心の希薄化、「草食国家」化(第3章のタイトルから)などのように思えるものの、逆転、再逆転などというのは恐らく数年単位の話ではないかと思うし(それだけ格差が狭まっているということだろう)、むしろ米国との「G2」時代に向かう中国とどう付き合っていくかに視線を向ける方が、日韓両国にとって優先事項だとも思うしで、読後感は複雑。ただ、朝鮮日報の記事は漠然と予想していた以上にバランス感覚が窺えた。
文鮮明(ムンソンミョン)師こそ共産主義崩壊の仕掛人―ワシントン・タイムズの創始者が採った戦略とは!? (『証言』普及版シリーズ)
いつ終わるとも知れない東西冷戦の時代、文鮮明師は反共の闘士のイメージが強かったが、彼の真の願いは全人類の救済にあるから、無神論に立脚する共産主義を否定はしても、共産圏の人々を憎んでいたわけではなかった。だからこそ、彼は自らを仇敵視してきた北朝鮮の金日成やソ連のゴルバチョフと手を組むことも、厭わなかったのである。本書は、冷戦終結に至るまでの過程において、文師の多大な尽力があったことを教えてくれる。
その中の代表的な一つが、米国保守系新聞社「ワシントン・タイムズ」(以下WT)の創設であった。米国の主要な新聞「ワシントン・ポスト」「ニューヨーク・タイムズ」が共にリベラルで、しかも当時の議会も民主党優勢で、いずれも世界赤化の野望に邁進するソ連政府の意向を受けているかのごとき有様だった。そこに、WTが現われレーガン政権を後押ししたがゆえに、レーガンが推進を図ったSDI(戦略防衛構想)が、ソ連政権屈服の決定打となりえたのは間違いない。レーガン自身も大統領退任時にWTに最大級の謝意を表わしているし、SDIの提唱者グラハム氏も「レバレント・ムーンが米国を生かした」と賞賛している。
今ひとつ重要なのが、本書後半で描かれる1990年の文師・ゴルバチョフ大統領会談であった。当時は冷戦終焉直前とはいえまだソ連時代だったのに、文師は国賓待遇でモスクワに迎えられた。文師は米ソ冷戦の平和的終結を説き、ソ連における宗教の自由化を訴えたのに対して、ゴルバチョフ以下ソ連側は文師の意向を快く受け入れたようだ。何しろソ連KGBは最大の仇敵・文師の統一運動の裏の裏も知り尽くしていたので、文師が何らの打算もない真実の人であることを理解していたのだろう。
本書は、冷戦終結の舞台裏の驚くべき真実が描かれているという意味で、歴史的名著と言っても過言ではない。最初から最後まで感動の連続である。