ユーラシア胎動――ロシア・中国・中央アジア (岩波新書)
奥付をみて『シベリア抑留』(2001)の著者と知り、現地の
情報通のものだなと思い、軽い気持で読み始めました。しか
し、書かれている内容の重大さに目を見張りました。
ロシア、中央アジア5カ国そして中国を中心とした地域での
最近の変貌が、それらの国が構成する上海協力機構という
地域協力組織、かつてのシルクロード地域で進む交通の整
備と物資の往来そして東への延びるパイプライン網などを話
題の軸としてレポートされています。
著者が言うように「アメリカを通じて世界を見るという惰性か
ら抜け出し、(中略)ユーラシアのダイナミズムに日本が本格
的にかかわることで、この国の時代閉塞の混迷を打破するき
っかけになる」(序章)かは、直ぐに結論が出るものとは思え
ないものの、一度は議論する値打ちのある提案だとは思いし
た。
基本的にはルポタージュなので、深い洞察には欠けるのか
もしれませんが、二百数ページの新書版としては十分な時事
情報と必要な考察が盛り込まれていたと思います。
海外クレイジー紀行
生真面目な方が読めば、卒倒する内容が満載されています。
幾分抑えながら書いている様子が伺われますが、それでもここまで世俗的に書いてあるのは珍しいと思います。
ただ、「それがどうした」と言われれば、答えに窮するかもしれません。
ある種の”ツワモノの武勇伝”なのかもしれません。
国内では決して許されることはない行為を、海外で、あたかも「してやったり、若気の至りだ」と本を出版し、包み隠さず物語ることの影響をきっちりと理解しておくべきかもしれません。
”おとな”なら、笑いで流されるだけで済まされますが、”まだ、こども”ならば、著者を憧れ、同じ行為に走ることもあるかもしれません。
今までバックパッカー本は多数読んでいますが、最近では、バックパッカーが自身の夢のロマンを追っている勇敢な姿を伝えるというよりも、ジャンルが少し変わってきて、オタク系で、ネタ探しであったり、ネタをもとに笑いを取るものに変わってきています。
本書はサラサラと読みやすく、ざっくばらんに話題を提供してくれるネタ本として、「へえー、こんなこともあるんだ」と感心するように読むだけであれば、ちょっとした息抜きになっていいと思います。
ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習 <完全ノーカット版> [DVD]
カザフスタン人に扮した人物が、出てくるアメリカ人を誰彼かまわず、本気の振りをして冷やかします。
相手が権威や差別主義者ならいいのですが、市井のアメリカ人まで相手にして悪ふざけをする姿は、見ていて心が痛みます。
単純なコメディとは違い、アメリカの実情を知らないと笑えない作品ではありますが、知的な作品でも上品な作品でもありません。
しかし、主人公がカザフスタン人と信じて応対するアメリカ人は、カザフスタンに対する情報がまったくないであろう事が予想されます(だから簡単に主人公の奇妙な行動を、「外国人だから」と疑うことがなく受け入れてしまう)。
偽者のカザフスタン人を通じて、アメリカを映し出しますが、ウィットに富んでいるものでもないので、印象としてはシニカルというより悪ふざけの映画でしかないという感が残りました。
より巧妙なフェイクドキュメンタリーに仕上げていれば、見ごたえがあったかもしれません。
アメリカはつっこみどころ満載の勘違い大国なので、もう少し異なったアプローチで制作されていれば、よりおもしろくなっていたと思います。
でも、結局アメリカ映画なので、わかりやすいものを作らなくてはいけないという拘束があるなら、このあたりがメジャー配給では限界なのかもしれません。
日本沈没 第二部
第二部は執筆が谷甲州さんに任されたということで期待して購入しました。日本人が避難したのは多くは地理的に近いアジアになるはずですので、アジアに強い谷甲州さんを選んだのは正解でした。
導入部分は、さすが谷甲州さんというべきで、ぐいぐいと読み進んでいきました。中盤以降は、ちょっとペースが落ちてきました。最後の方はちょっと尻切れトンボになったような気もします。
日本が消滅した後の世界を描いた谷甲州さんの作品としてとらえれば、あまり不満は無いと思います。
モンゴル [DVD]
ユーラシア大陸の大半を後に支配することになるチンギス・ハーンの若き日を描く。規律の無い小さな部族間の争いが映画の大部分を占める。そこで描かれる若き日のチンギス・ハーン、テムジンは弱い。戦に負け、奴隷にされ、売られる。そのたびに幼き日に妻と決めた女性に助けられることになる。
この女性、最初に見たときには美しいのかどうかわからなかった。しかし、芯の強さが感じられた。テムジンの父は顔が平らで目が細く、足の強い女がよい女だとテムジンに教えた。父の理想どおりに育った女がこの物語の影の主役である。
どんなに落ちぶれても、心まで落ちぶれる必要はない。心が折れたものが敗れたものなのだ。テムジンは誰にも守られず隠れるところの無い平原で一人生き延びた。戦に負け、奴隷になっても心は折れなかった。この物語からは強い二つの意志が絡まりあって巨大な堅い柱となり、そこに雷が落ちて雷の力をも味方につけてしまったかような印象を受ける。雷はモンゴル人にとって空の神である。二人の意思の強さが画面から伝わってくる。