定家明月記私抄 (ちくま学芸文庫)
紀州路、熊野街道では王子社の多くに明月記からの抜粋資料が掲示されています。 これを読みつつ足を進めるうちに、後鳥羽院の随員のひとりになったような気分になってきます。 藤原定家は、後年、正二位、権中納言まで出世し、後世には小倉百人一首を残し、現在もなお歌道の名家として残る冷泉家の祖としても名を残しました。
しかし、その定家も後鳥羽院の熊野詣に随行したときには四十歳、ようやく前年に昇殿を許されたばかりです。自分の子どものような少将どもと混じり、情けなさに身の不運を嘆いたり、、院のわがままに振り回され、咳病など持病をおしての宮仕えの苦労もあるなど、800年前の官僚の日記が身近なものに思えてきます。文明は進んでも人間のやっていることというのは、たいして変わらないものだということをあらためて感じさせます。
日本合唱曲全集 團伊玖磨作品集
岬の墓は、旅立ちの歌。白い船、墓、赤い花などが人間の旅立ちを高らかに歌い上げます。歌う側にとっては、これは難曲です。相当のエネルギーを要する曲で、そうした盛り上がりが、「我ら、何を聞こう」という静かな思索を招くのです。名曲です。「美しい船よ、白い船よ、船出せよ」のあたりは、全曲の白眉ですね。
筑後川・・・単なる九州地方の一つの川の賛歌だと思わないでくださいね。これ、実は『男と女の性』の歌です。そう解釈して聞くと、きわめてどぎつい表現こそあるけど、最後のフィナーレでじわっと涙が出てきます。「今生まれたばかりの川・・・」⇒「あなたを信じます、あなたの愛を・・・」⇒「朝日に跳ねよ、銀の魚」は精子と卵子の結合⇒「一万匹の河童よ騒げ」の河童は、生まれ来る小さな魂⇒「フィナーレをこんなにはっきり予想して」は年老いた親が子供に託す切なる思いです。
そんな解釈はいかがです? がらっと聞き方変わりますよ。
時代の風音 (朝日文芸文庫)
話は日本史、世界史はもちろん「紅の豚」「ルパン三世」まで幅が広いのです。そしてその内容のひとつひとつを、この三人が語るので楽しさ尽き止まぬのです。
特に歴史の評価や政治のあり方について私たちが一番気をつけなければならないのが「評価している人の人間性」だと思うのです。
お三方共に人格、教養に優れさらにユーモアも解していらっしゃるので、非常に勉強になる楽しい本です。
例えば宮崎駿さんが好きな方は「宮崎さんが尊敬している2人(堀田さん、司馬さん)」という人を知る為に。
司馬遼太郎さんが好きな方は「司馬さんの友人関係や普段興味を持っている事は」
堀田善衛さんが好きな方は「司馬さん、宮崎さんにどういう影響を与えたか」
って読んでも楽しいと思います。私はこの本で、堀田さんを知りました。著書を読んで、更に素晴らしい人だと思いましたが、同時に人間関係の大切さも知りました。
日本合唱曲全集「岬の墓」團伊玖磨作品集
数ある團伊玖磨の合唱曲のなかでも「岬の墓」は屈指の名曲である。
この曲の歌詞は、船出する美しい船を岬の白い墓が見守る、という単純かつ和やかなもので、
十分ほどの演奏ながら、曲調は非常に変化に富んでいる。
男声部のやや低めで印象的なハミングのメロディから始まり、
その後は「今、過去、未来」を順に見つめるように、明瞭に曲の雰囲気が変化していく。
現代日本の合唱曲にしては古典的なクラシックらしい曲の構造を持ち、
安定感と荘重さにおいては、おそらく他の合唱曲の追随を許さないであろう。
辻氏が指揮するクロスロード・アカデミー・コーアの演奏は、人数編成は多くも少なくもないものの、
表現の豊かさと演奏の一体感において、とても素晴らしいものを聴かせてくれる。
このCDにはほかにも定番曲の「河口」も入っており、申し分ない内容と言える。