月と蟹
親や友達との関係に悩む小学生の心を繊細に描いた物語。何かに悩んだとき自分で解決できないと何かにすがりたくなってしまうが、本物語ではヤドカリを神様に見立てることで悩みを解消しようとしている。そんな不安定で繊細な子どもの心理が丁寧に描かれていた。行動が徐々にエスカレートしていき、何をするか予想がつかず後戻りできなくなってくる展開はドキドキして楽しめた。
シャドウ (創元推理文庫)
WHo's the SHADOW ? −−シャドウは、誰か?
そんな副題の作品、
第7回本格ミステリ大賞受賞作です。
小学5年生の凰介は母親を癌で亡くします。
ほどなく、幼なじみの亜紀の母親が自殺、
亜紀自身も事故に遭ってしまいます。
さらに、二人の父親の言動に不可解な点が生じて・・・。
とにかく、読みやすい。
ストーリー展開も小気味よく、
ページを繰る手が止まらなくなります。
そして、この作者得意の後半の二転三転。
シャドウとは何か。シャドウとは誰なのか。
結末に向けて物語は一気に加速します。
どんでん返しの衝撃度は、
それほど強くないけれど、
ラストに至るまでの物語展開が、
凰介の精神的苦悩と成長を描いています。
単なるミステリでは終わることなく、
小説として清々しさを感じさせるところが、
注目の作家と言われる所以だと思いました。
カササギたちの四季
物語の語り手は28歳の青年・日暮。高校の同級生・華沙々木(かささぎ)に誘われるままに2年前、2人で「リサイクルショップ・カササギ」を開店。赤字営業で現在に至っています。美大出の日暮は手先の技術を活かして、商品の修理やブラッシュアップを受け持っています。店長の華沙々木は、「マーフィの法則」(原書)を心から信奉する至っていい加減な男で、日暮はしじゅう振り回されています。物語は、日暮の視点から、ぼやき混じりに描写されていきます。
4編の中編は、いずれも親子を巡る物語で、リサイクルショップの客が抱えている事情と、周辺で起こった些細な事件を、頼まれていもいないのに華沙々木が首を突っ込み、推理を展開し、その陰で日暮が黒子になって「天才・華沙々木」を演出するという小話になっています(日暮には、華沙々木を天才にしておきたい事情があるのです)。各話のタイトルは、主要な登場人物の名を借りており、最初の2編は「鵲(かささぎ)の橋」「蜩(ひぐらし)の川」。3編目「南の絆」は、店に入り浸っている中学生・南見菜美が、なぜリサイクルショップに入り浸るに至ったかという前日譚で、菜美とその親の物語です。最終話「橘の寺」も登場人物の名ですが、最終話までは誰の名であるかは伏せられています。やはり、親子の物語です。
語り手の日暮も、自身の親に対する思いが行動原理の一部をつくっていることが繰り返し示されます。主要登場人物の中では、華沙々木だけが家族との関係がまったく描かれていません。嵐の中心にいるけれど空っぽな、台風の目のような存在といえるかもしれません。
話の展開にびっくりするような仕掛けはありませんが、ひとつの状況の解釈が、登場人物ごとに二転三転していき、やがて真相とそこにまつわる人々の思いが露になっていく様はみごとです。最終話のラストには、ちょっと泣かされました。いろいろな人たちが、人知れず他者を思いやっていることを少しだけ匂わせて、優しく爽やかな気分で物語は終わります。
力強い傑作というよりは、鮮やかな佳作です。