
アリストテレス (講談社学術文庫)
元々「人類の知的遺産」叢書に含まれていた本。このシリーズは元来「オリジナルテクストの抜粋にコメントを加えることにより哲学者の思想の根幹を示す」が一つの原則だが、今道氏は(アリストテレスの専門家ではないにもかかわらず)テクストの徹底した読みに基づく解釈も含めた(時にはギリシア語原文の読み方にまで踏み込んで!!)「碩学の客観的かつパースナルな解説」に徹した「入門書の枠を超越した最高のアリストテレス哲学への招待」だ。驚くべき質的高さなのに「読みやすい」のは、事柄自体への著者の理解がいかに深いかの証左だ。素晴らしい書物。
ただし「文章の簡潔性」に関しては、死の床にあった「恩師 出隆先生」(日本アリストテレス哲学の大立者)に間に合わせるために急いだのか、「東大美学講座」などにおける文章の彫琢性には劣る部分がある。そこはこの碩学の一大業績に免じてご容赦あれ。