Angel Station
79年発表の9作目。前作発表後のツアーをもってグループは一旦解散。マン(k、vo)、トンプソン(vo)、パット(b) の3人を中心にして元ガン〜イースト・オブ・エデン〜ウィングスのジェフ・ブリットン(dr、sax)、スティーヴ・ウォーラー(vo、g) の2人を加えて本作を発表している。プロデュースを担当したアンソニー・ムーアもギター、シンセ、シーケンサーと大々的に参加している他、ジミー・オニール(g)、ダイアナ・バーチ(vo)、そしてクレジットはないようだが、アン・ケリー(vo)、グレアム・ピスケット(vln) などゲスト陣の貢献が非常に高いのが特徴で、バンド自身の不安定さも感じさせる作品でもある。楽曲面ではマイク・ヘロン(本作で2曲目)の1.ボブ・ディランの2.ハリエット・ショックの3.ビリー・ファルコンの8.などのカヴァーとマンを中心としたオリジナルが半々くらいの内容で、メンバー全員とゲストのジミー・オニールとの共作5.マン、ジミー、ハース・マルティス(ジョン・サイモン絡みのシンガーソングライターの人だと思う)の共作の6.などが興味深い曲だと思う。
1.はヴォコーダー(トーキング・モジュレーターかも?)も入った曲で、ハービー・ハンコックをちょっと意識した仕上がりだと思う。ドラムスにはテクノ・ポップ的な雰囲気も感じられ、彼らなりに時代を意識しているのが良く分かる。シンセのソロは必聴で、テクノともフュージョンとも言えない独特の演奏は個性的かつ魅力的。2.はニュー・ロマンティック路線のアレンジ。嫌が応でもウルトラヴォックスを思い起こさせるが、サビのキャッチィーさは彼らより勝る。どちらにしても必殺の一曲だろう。
一世代前のプログレ/フュージョン色を払拭してテクノ/ニュー・ウェイヴ色を強めた革新作。楽曲のクオリティは相変わらず高いだけに時代に契合してマンネリを避けたこの方向性は正しいと言わざるを得ないだろう。ただし奥底に残ったプログレ魂は消えてはいない。
Roaring Silence
76年発表の7作目。前作を最後にミック・ロジャースが脱退。新たにクリス・トンプソン(vo、g)、デイヴ・フレット(g) を迎えて制作された作品。再び取り上げたブルース・スプリングスティーンの1.が全米1位(全英6位)を記録し、アルバムも全米10位(全英10位)を記録。本作がアルバムとしてはグループの出世作となった。2.では元インクレディブル・ストリング・バンドのマイク・ヘロンの楽曲を取り上げるなど渋い選曲も見られるが、他はマンを中心に共作されたメンバーのオリジナルである。スーザン・リンチ、ドレン&イレネ・チャンター、元メンバーのミック・ロジャースがバック・コーラスとして参加。他にも合唱隊、リコーダー、管弦楽器奏者の他、サックス・ソロとしてジョン・ハイズマン夫人のバーバラ・トンプソンも参加している。
1.のポップかつメロウな仕上がりには一皮向けたかのような印象も受けるが、この時代のクロス・オーヴァー/フュージョンに呼応しつつ、自らの資質をうまく活かした高い完成度を見せている。静と動のパートをうまく取り入れながらもプログレ臭はなし。適度に辛いがマイルドなヴォーカル。泣きのリード・ギター、スペーシーなコーラス、フェイサーの掛かったパーカッシヴかつ滑らかなオルガンのフレーズも強い印象を残す。確かにこれならヒットしない訳がない。2.はメロトロン、ストリング・マシン、女性ヴォーカルなどを加えてスペーシーかつ重厚に仕上げたソウル・バラード。バーバラのサックス・ソロを含めてこちらも必殺の仕上がり。3.もメロトロンの混声合唱が入ったメロウなバラード。ラス・パラードが書きそうなタイプの佳曲である。5.は楽曲も素晴しいが、新加入のギタリストの凄まじいソロが聞き物。
前作も素晴しかったが、本作ではぐうの音も出ないほどの高い完成度を見せている。新メンバーの実力も高く演奏も新鮮。楽曲面の充実度は言うに及ばずだろう。マンの演奏する人力テクノ的なプレイも時代を考えると興味深い。