Jブンガク マンガで読む 英語で味わう 日本の名作12編
マンガと英語で近代文学を覗いてみる本。
明治から昭和初期の12作品が紹介されています。各作品には18ページずつ割かれていて、その18ページが更にいくつかの小部屋に分かれているので、どこからでも読めます。まるであらかじめつまみ食いされる事を想定しているかのよう。気軽に読める本ですね。
マンガと日本語と英語で粗筋が紹介された後、『キャンベル先生のつぶやき』という部屋では原文と英訳文が示されます。日本文学の専門家であるキャンベル先生が、英訳に際して感じたことなども書かれていて、敷居の低い本書の端倪すべからざる一面が垣間見えます。
文学の紹介本としてはかなり異色の一冊かもしれませんが、読み易いです。
にごりえ [DVD]
3話とも貧しく虐げられた庶民の話である。第1話は高級官吏の夫人に納まっている女が出てくるが、実家はそんなに裕福ではない。ヒロインの夫は恐ろしく我儘で登場人物はみな彼を恐れているのだ。全く画面には登場しないから余計に恐い感じがする。この我儘者のために身を破滅させた男が車夫として出てくる。第2話は幾分コミカルだが、やはり傍若無人の奥様が登場する。第3話がメインだが、誰も好き好んで今の仕事をしているわけでない女の悲しみが切実だし、身を持ち崩した男も哀れである。そこには社会の矛盾を見てとるのは今井監督らしい。製作当時、助監督たちは代々木系の某政党の党員たちで名何故一葉を撮るのかと監督に詰め寄ったという。監督は一葉もいいものだとかわしたそうだが、今観るとその助監督の不明さが如実に現れている。
たけくらべ (集英社文庫)
樋口一葉作品は、この集英社文庫版ではじめて読みました。正直、明治文学を読めるかどうか不安だったのですが、この本はとても優しいです。
まず最初の4ページに、一葉ゆかりの写真や絵が掲載。そして本編の前に梗概がついてる優しさ。漢字にルビがつき、1ページ1ページずつ下方に説明文が書かれています。最初は慣れないかもしれませんが、文章を理解しやすい形態で、私には嬉しかったです。
それに余白の遣い方!
他の出版本では、文字を隙間なくぎっちり詰めているので、台詞も地の文も判別に難しく、正直苦しい印象です。でもこの本では台詞を独立させ、セリフ終了後に余白をもたせた為に、言葉が活きているような感じになっています。
「誰も憂き世に一人と思うて下さるな」
この台詞も、地の文に埋もれる事なく活かされています。文字をぎゅうぎゅうに詰めていたら、私はこの本を読まなかったでしょう。余白の活用に、編集の心理的余裕が、この本を私に読ませるきっかけになりました。
第一印象で《難い》と思ったら、樋口一葉離れしていたでしょうね。
最初の掴みに《名作!》と心に響かせるこの出版物に出会えたのは幸せでした。
私はこの本に、最大級のエールを送ります。
にごりえ・たけくらべ (新潮文庫)
「たけくらべ」の美登利の姿が印象的でした。生き生きと遊ぶ子供の時代から離れ、遊廓の世界に入らなければならない。当時の哀れな女性の姿が描かれています。一番印象的なのは、やっぱり美登利が鼻緒が切れて困った真如に赤いちりめんをこっそり投げる場面。とてももどかしくて応援したくなりました。とても美しくて切ない作品ですね。
それにしても、貧しさ(金)によって病気で亡くなった一葉さんが、今や5000札になってるなんて一葉さんはどう感じてるんでしょうねー。
にごりえ [VHS]
表題作の「にごりえ」が注目されがちだが、現在ではもう描かれることはないだろう形の戀を、余韻を残して表現した「十三夜」が秀逸。
身分違いの結婚をした娘、彼女に華族様の良き妻であることのみを要求する父親、娘に同情しつつ何も出来ない母親、不穏な空気だけを感じ取っている弟。こう書いてしまえば現代でも十分ありそうな感じだが、この明治時代に彼らを縛っていた目に見えない何かは、もう私たちの時代には残っていないのだ。
思いがけず初恋の人との再会を果した夜は、ただ息子のためだけに死んだまま生きることを選択した夜でもあった。一緒に月の下を歩いたこの夜を最後に、彼らの人生が交わることは今後一切ないのだろう。忍耐するが故の儚さ、切実さ、美しさをこの映画に見ることができる。
しかし録之助役の芥川比呂志は第一声でただの車夫ではないことが分かる。さすがと言うべきなのだろうか。