ことばの海へ雲にのって―大漢和辞典をつくった諸橋轍次と鈴木一平 (PHPこころのノンフィクション 16)
大漢和辞典というすごい辞書を30年かけ、戦火で版が燃えてしまうなど、多くの試練を乗り越えて作り上げていく諸橋先生と鈴木一平社長、その家族、日本人の本当の力がここにあるような気がします。あらためて、推薦図書として子どもに読ませたいです。
母の手紙―母かの子・父一平への追想
芸術家・岡本太郎に関連する書籍が次々と刊行されていますが、その中でも本書は、岡本太郎自身によって何度も引用されている様に、岡本太郎の至極真っ当な、一貫した理性に裏付けられた彼の活動の根源が垣間見える良書です。岡本一平・かの子の生活は、世界の文化・学門を吸収し尽くし、それを自らの血肉にしていく情熱と理性の実践であり、かの子の「一家研鑚」という言葉がそれを物語っています。ひとつの道を極め、人間として開花していく苦悩と歓喜が、私の背中をずっと押してくれています。
九ちゃん刀を抜いて [DVD]
この作品の脚本家・城のぼるはどの検索で調べてもこの「刀を抜いて」しか出てきません。
でも実はこの城のぼるは故・岡本喜八監督のペンネームです。
東宝の次郎長三国志シリーズで故・マキノ雅広監督に助監督でついた岡本監督が師匠のために会社を飛び越えて協力したコラボレーションなのです。
残念ながら岡本監督は生前あまりそれを公言しませんでしたが、これは紛れも無い事実でこの作品を楽しむ一要素になるでしょう。
岡本監督はこれで九ちゃんを気に入り後の作品でお婆さんの役で起用しました。
ぜひ広がる喜八ワールドを楽しんで下さい。
岡本一平漫画漫文集 (岩波文庫)
漫文とは、今に直すとマンガ家やイラストレーターが
日常を独自の観察眼で切り取るエッセイに近いと思いました。
岡本一平さんの挿し絵を観る事は明治、大正という時代の世界を覗きこむ楽しさがあります。
それは竹久夢二のようなロマンチックで叙情的な世界とはまた異なり、
長閑でのんきさを持った空気を持っています。
江戸時代の広重的なタッチや、ヨーロッパの後期印象派の画家の描く素描のような素朴さも感じさせます。
イラストレーションとなると、戦後から評価する事が一般的となってる所はありますが、
今にないタッチではありがなら、表現力として面白く新しさまで感じさせてしまう部分が多くあります。
和筆の大胆な線と細いインクペンの併用や、白黒という2色だけの中で、
黒の色面を効かして画面を引き締める潔さなどが印象に残りました。
絵もさることながら、夏目漱石が「文章が絵よりも優れていることがある」と評した通り、
文章のリズム感、ユーモアに作家の性格が表れていて読んでいて自然と笑みがこぼれます。
街中の人間同士のやりとり、政治家、作家に至るまで皮肉を込める事はありながらも悲観的な描写はなく、
その根本に人間への愛らしさを陽性な一平さんは持っていると感じました。