真夜中のカーボーイ [DVD]
アメリカ映画は商業主義に走る傾向があり、映画はビジネスでもあるから仕方のないことかもしれないが、例外的な時代が60年代後半、そして70年代初頭だったのではないだろうか。もちろん興行収入をまったく気にしなかったわけではないだろう。しかし、あの時代、客に媚びるのではなく、映画が自己主張することによって、客を引っ張っていた感がある。「真夜中のカウボーイ」はそんな映画である。邦題だけを見ると何のことかと思うが、英題も実は「Midnight Cowboy」とそのままである。
映画は一攫千金を夢見てテキサスの田舎からニューヨークに「上京」してきた男が、男娼として身を立てようと悪戦苦闘する内容で、コメディ仕立てではあるが、その内容からも発表当時、相当な物議を醸し出した映画である。言うまでもなく、これは大人の映画であり、ある程度人生経験を積まないと、またアメリカ文化をある程度知らないと、この映画の良さはわからないかもしれない。注目すべきは今を輝くアンジェリーナ・ジョリーの父親であるジョン・ヴォイトの名演であり、また名優ダスティン・ホフマンの怪演であろう。オスカーは逃したが、二人ともはまり役であり、オスカー級の演技であることに間違いはない。監督のジョン・シュレシンジャーはヨーロッパ出身の監督であるが、当時のアメリカの匂いを見事に捉え、斬新な演出と編集の力でこの傑作を作り上げた。アメリカ映画を語る上で見逃してはならない作品だろう。
真夜中のカーボーイ (2枚組特別編) [DVD]
とかく乾いたアコギと、湿ったハーモニカの音色が印象的な映画だが、内容もまさに二面性
を表現していて、田舎から出てきた好奇心に溢れる若者と、都会でボロ雑巾のごとく、どう
にか生きながらえている男。都会の闇に溺れながらも、どうにかこうにか反体制的に
生きる姿が心を打つ。
監督のジョン・シュレシンジャーはイギリス出身の事もあって、単に都会的な若者の荒廃を
描くんじゃなくて、客観的にみたアメリカンドリーム、そして理想と現実の圧倒的な差を
見事に描ききってるところが偉大だ。単にアメリカナイズされただけの作品とは一線を引い
ている。ジョーの少年、青年時代の回想、ラッツォの夢に膨らむ妄想なんかのシーンを巧み
にとりいれ、現実から遊離していく心の隙間の表現なんかは見事すぎる。
あどけなさと、やるせなさの両方を見事に演じきったボイトも凄いが、この映画の
ダスティン・ホフマンは神がかってるよなぁ。まさに死に向かう人間は、あんな顔をする
んだろうと思わせてくれるほどの演技作りに脱帽。
ラストのジョーの決意、そしてボイトは・・・まさに最後まで反体制の矛盾を的確すぎる
ぐらい(だから泣ける)描いたアメリカン・ニューシネマの傑作だろう。