猫のいる日々 (徳間文庫)
大仏次郎さんがどんな小説を書いた人だったのかも全く知らずに手に取った一冊。内容は猫にまつわるあれこれを綴ったエッセイと小説1篇と童話が4話の構成になっている。エッセイはとにかく猫が好きでたまらない、と言うよりは淡々と猫との生活を送っている様子が見て取れる感じ。ご本人より奥様の溺愛ぶりや飼い猫(と言っても居候もいたようだが)だけでなく、旅先の猫に興味を持っている辺りは本当の猫好きでしょう。猫の好きな人は猫かわいがりはしないもの。日に日に増えてゆく猫たちに時には腹を立て、書斎は入れないなどのルールもある。
象徴的なのはいつの世も動物をかまわず捨てていく人がいるということ。エッセイにも何度となく登場し、心底腹を立てているのが分かる。いつの世も同じか・・。たくさんの猫の世話や食事にほとほと嫌気がさしている様子も動物を飼っている身なら人事ではない。こちらは1匹でも大変だったのに、と思わずにはいられなかった。
童話は子供向けであるためやさしい言葉で心温まる雰囲気。言葉そのものも古きよき時代を感じさせ、とても新鮮。小説も猫の暖かさが時代の冷え切った様子とうまく対になっているのように見え、さすがだな~と思わせる。全体に短い話ばかりで気軽に読める。小刻みに読む物としておすすめ。
悪人(上) (朝日文庫)
若い、祖父母とひっそりと暮らす青年が、一人の女性を殺害する。
田舎に暮らし、車以外特に娯楽もなく暮らす青年。
その暮らしぶりは、ストイックそのもの。
出会った女性に対しては、とにかく尽くす。出会いが風俗や出会い系サイトなど、どんな形であれ。
不器用に尽くす彼が、どうやって女性を殺害するに至ったのか、
そしてどうやって、逃げて行くのか…
読み始めた時に、彼は悪人に見えました。
でも読み進めて行くうちに、彼は本当に悪人なんだろうか…という疑問がわいてきました。
そして読み終わった今、私たちが、実際に目にしていない事件の真髄を知ることなど、まれなのだろう、と思っています。
そんなことを考えさせてくれた小説でした。
コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来 (ちくま新書)
地域コミュニティのあり方、自分の関わり方を考える上で参考にしようと思い購入しました。
「まずは入門レベルから」という考えから新書である本書を選択しましたが、新書でありながら、日本をはじめアメリカ、ヨーロッパでのコミュニティの形態の変遷や、これまで辿ってきた時代における課題などについても丁寧に分かりやすく解説が加えられ、他の資料を参照しなくてもある程度の背景知識も得られる内容になっています。
また、後半の現代の日本の世相や文化を基にした、これからのコミュニティの方向性についての示唆、更に、あるべき姿に関する問いかけも鋭く、一度読んだだけではなく、今後、自分がこの社会の中で生きて、考えて行く上で常に手元に置いて参照したい一冊だと思います。
多くの方に読まれることを願います。