街道をゆく (9) (朝日文芸文庫)
司馬氏の「街道をゆく」を読む楽しみの1つとして、自分が旅行した地域についての巻を読み、旅の思い出を新たにするということがあります。
今回は、会社の研修で高野山に行ったことから、「一体、司馬氏は、高野山を歩き、何を思ったのだろう?」と思い、手に取りました。で、読後の感想なのですが、私と司馬氏は、同じ情景を見て、触れたはずなのに、この思索・知識量の差はなんだろうといういつものパターンでした(笑)
また、当シリーズの前半巻の特徴として、同行した人々−とりわけ画家の須田氏−の人柄に触れる箇所が多いのですが、この巻でも、道端の花々や山々に素直に感じ入る須田氏の人柄の描写が多く、須田氏ファンにもお奨めの1冊です。
ワイド版 街道をゆく〈9〉信州佐久平みち、潟のみちほか
初出は1976年の『週間朝日』。
本書に収録されているのは「潟のみち」、「播州揖保川・室津みち」、「高野山みち」、「信州佐久平みち」の4篇。9巻ともなると文章も内容も安定しており、引き込まれるように読んでしまった。
圧巻だったのは「潟のみち」。新潟の干拓地を訪れる話だが、土地にかける農民の思いや、小作制度による悲惨な体験が描かれており、迫力がある。この土地が現在どうなっているのか、関心をそそられる。
もうひとつ面白かったのは「高野山みち」。特に高野山周辺の聖に焦点を当てている。聖とは寺には属さない半僧のことで、女性と関係を持ったり、物乞いと変わらなかったりする。その実態を洗い直し、民衆との関係を衝いた点が素晴らしい。