誘拐捜査 吉展ちゃん事件
吉展ちゃん事件を語るに有名な平塚八兵衛と小原保の攻防、苦境に立つ警察関係者。その事実が語られる。エンターテイメント的な表現が除かれ、当時事件に関わった刑事たちの苦悩が伝わる。事件解決の立て役者である八兵衛の灰汁の強さ、いやらしいほどの功名心があってこその事件解決であったのか。時系列が何度も前後して書かれており、読みにくい点がありましたが、ドキュメントとしては完成度が高いです。
刑事一代―平塚八兵衛の昭和事件史 (新潮文庫)
昭和の大事件をあつかうドキュメントの本を読むと、
「平塚八兵衛」
という刑事の名前が頻繁に出てきます。
興味があって探していましたが、絶版になっていて図書館でもありませんでした。
先日本屋で平積みしているのを見つけて小躍りして購入しました。
「落としの八兵衛」
と書かれているので、人情話みたいな内容か…と思って読み始めたのですが、ちょっと赴きが違いました。
真実に近づくためにどんな作業をして、どんな結果が出てきたか。
それを、
「誰でも納得できるように説明している」
そういう本でした。
この人の頭のいいことには本当に舌を巻きます。
べらんめい口調ですし、上司とやりあった話なんかが挟まれるので、ガラッパチのおじさんの印象ですが、
事件にあたって筋道を浮き上がらせていく様子は
「本物の迫力とはこういうことなんだな」
と、本当に感心させられました。
「『現場百回』というのも、できるだけ多くの疑問を引き出して、ひとつずつそれをつぶす、そういう意味なんだな。」
「疑問があったらとことんやれってことだ。」
という言葉のとおり、
事件の現場や、目撃者、身内、遺留品などに、
とことん調査をしていく様子が語られていて興味深いものとなっています。
平塚八兵衛刑事の理知的な捜査方法や、一つ一つの行動の合理的で緻密な様子が語られています。
吉典ちゃん事件の犯人が盗んだと証言した「シミモチ」は存在しなかったこと。
帝銀事件で使われた名刺の出所をあたり128枚行方を捜して東北から北海道をまわり回収したこと。
下山事件での目撃者の証言の数々
が親しみやすい語り口で説明されていて、迫力があります。
とくに、興味深かったのが三億円事件でした。
遺留品のトランジスタメガホンの塗装をはがし、しみじみながめていたらマウスの部分から新聞紙のうっすらとしたあとをみつけた。
文字の配列からサンケイ新聞の43年12月6日朝刊婦人欄「食品情報」婦人欄ということを割り出した。
紙質から大王紙をつかっていることをつきとめ、そこから輪転機をたどって、配達地域を限定した。
という場面など、地道ですが迫力がある捜査の様子がたくさん語られていてどの件もとても興味深いです。
それぞれに現場の状態の図や、脅迫状、新聞掲載の写真などが載っています。
期待していた以上にとても面白い本でした。
再出版に感謝します。