阿修羅のごとく [DVD]
NHKで放送された和田勉演出のテレビ版は、テレビドラマ史上ベスト10に入るとも言われる傑作で、最初のトルコの軍楽から強烈な印象を残す作品でした。このような作品を敢えて映画版としてリメイクした森田芳光監督の勇気は賞賛に値するのかもしれません。テレビでは「パート2」も含めれば8回に分けて放送された内容を135分にまとめたので、ストーリーの展開が急すぎるところも有りますが、八千草薫(テレビ版では次女役を演じていました!)の母親、大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里の姉妹(深田恭子の四女は・・・でしたが)、加藤治子(テレビ版では長女役を演じていました!)のナレーションは良かったと思います。でも、この作品をご覧になったら、伝説のテレビ版も見たくなると思いますよ!
冬の運動会 [DVD]
エリート家族にいながら、父、祖父、息子がそれぞれ別宅を持ち、安らぎを得ている。それだけ書くと、なんだか侘しい寂しい物語のように感じ、前半部分は「悲しいなぁ」と思ってみていました。
しかし、!この物語は、中盤から後半にかけてぐっと加速し、観るものをどんどん引き込んでいきます。祖父の植木等、父の國村隼、それぞれがゴールにたどり着く中、息子の菊男(岡田准一)だけが、行く末を模索しています。そして、さわやかなラスト。配役がすべて機能し、味わいぶかい印象を残しています。
植木等が、愛人に西瓜色のマニキュアをはみ出しつつも塗っているシーンは、この映画の中で強烈なインパクトを持って心を揺さぶります。涙が止まりません。
靴屋の女房柴田理恵、祖父の愛人寺島しのぶ、母の樋口可南子、女性陣も迫真の演技です。
涙も一杯流れますが、見終わったあと、さわやかな印象を残す秀作です。すべての世代の方が、誰か彼かに自分を重ねあわせて見ることのできる映画と思います。
夜中の薔薇 (講談社文庫)
平易である。親しみがある。凛としている。
この人の文章である。
小説も読んだが、このエッセイに惚れている。
何度写してもものにできない。
細やかである。あたたかである。カラッと晴れている。
この人の視線である。
心に残るのは「手袋をさがす」。
「手袋をさがし続ける」女性であろうと決めた
潔さと悲しみが胸に迫ってくる。
今もNHKのニュースで聞いた訃報を忘れない。
歩みを止めた作家にはまだ届きそうにない。
あ・うん [DVD]
「戦友」という言葉に私たち世代では、リアリティは持ちえませんが、生死をともにした生涯の親友、肉親に近い感情をともにいだき生きていく。夜間の大学出であることを気にしながらも保険会社で懸命に生きていく水田と美貌の妻、そして家族。もう一人門倉は結婚するも子は無く、妻ともあまりしっくりいっていないが、軍需工場を経営し、金はある。そして、門倉は水田の妻に純愛といってもいいほのかな恋情を抱いている。男と男の友情、水田の娘とやがて学徒出陣する学生との純愛、富司純子演じる水田の妻の美しさとつましさ。こんな世界がありうるのだろうか、と思わせるほど、日本的な世界がそこにある。少し大げさに言うと、それは日本的なコミュニティとも言える。向田邦子さんはこうした世界を描き続けた。「あ・うん」はその代表作ともいえる。サンスクリット文字では「あ」は
すべての始まりをあらわし、「うん」はすべての終わりを意味する。つまり、森羅万象ということになるが、私は映画とNHKドラマのビデオを何度も何度も見てきました。そこに日本人のふるさとを感じからでしょうか。
とまれ、秀作です。ちょっと俗っぽくて、笑う高倉健の姿はスクリーンではほとんど見られません。そんな意味でも貴重な映画です。少なくとも私にとっては。