アポロンの島 (1967年)
同時代を生きた、生存者として、うれしく、ありがたい。近頃の作家の饒舌さに慣れた身には、ヘミングウェイ風の贅肉をそぎ落とした文体は過激にさえ思える。同じころ私もシチリアを旅した。土地の人との関わり方に見る作者のある種の冷たさは、私とは異質。それも文体のなせるわざか。
吉本隆明「五つの対話」
吉本隆明氏が二十年ほど前に「新潮」に不定期連載していた対談をまとめたものです。小川国夫、河合隼雄の御二方が鬼籍に入っておられますが、辻井喬氏はまぁともかく、「養老孟司氏は、この時期にはもうメジャーであったのか」とか「高橋源一郎さんの、むかしの対談のしゃべり方だ」とか、なにか読んでいて懐かしかったです。「トポロジカル」という言葉なんか、きっとこういう本を通して覚えたはずだし。「文学」に関する新潮社の対談であったりエッセイであったりの単行本は、時間が経っても長く読むことのできるものが多くて、お勧めです。たぶんトマス・ピンチョンは、三十年近く前に読んだ中村真一郎の「本を読む」で初めて知って、近所の書店で「V」を注文した気がします。まぁ、由無し事ですが。