F・ヘルス嬢日記 [VHS]
佐伯一麦「一輪」を原作とするものだが、実に切ない「パリ、テキサス」みたいな味わいの名画である。荒井晴彦脚本がいいのか、真弓倫子がいいのか金山一彦がいいのか、みんないいのである。
狂人日記 (講談社文芸文庫)
色川さんの小説の主人公はたびたび幻覚の類に襲われる。
この「狂人日記」もそうである。とびきり悲しい幻覚だ。
心がくちゃくちゃになっちゃって、現実生活に復帰するなんてもはや絶望に近い状況なのに、それでも奮闘する主人公が、とてもけなげで、そしてせつない。同時に、すこしおかしくもある。そういう風に書いているのだと思う。
こういうことを書いていた。「苦しむのは書く方だけで十分だよ。読者は楽しませなければいけないんだ」これは阿佐田哲也としての発言だけれど、これは色川武大の一連の著作にも敷衍できるのではないだろうか。
やさしい人だったんだろうな、と思う。
ひと粒の宇宙 (角川文庫)
4000字という制限のなかで作者独自の小説による「宇宙」を作り上げるのはベテランクラスの作家であってもなかなか難しいようだ。もちろん、語り口の好き嫌いも読後感を大きく左右するのだが、「短編小説の名手」として定評のある小説家でも「幻想」や「夢オチ」「SF」「童話」に逃げていたり、いかにも断り切れずの「ヤッツケ仕事」と想像される作品もあるし、逆に失礼ながらあまりよく知らない作家でも巧くまとめきった作品もありまさに30人30様。いっそのことこの字数制限で一般公募してみたらどうだろうか?