戦国関東血風録外伝―悲雲山中城
中世の城跡に関心を持ち始めたばかりなので小説のテーマとしてはまさに格好のものでした。攻撃側の一方的で凄惨な戦いは1日足らずで終焉し小田原北条氏滅亡の序曲となるのですが、わずかに残されたひとびとのその後に多少の救いが残ります。筆者も意図する小田原評定に代表されるマイナスイメージの多い後北条氏の復権が期待されます。後北条氏、戦国期の山城のファンにとってはぜひともお奨めしたい力作です。主人公は小田原衆所領役帳に約700貫の知行を与えられている間宮康俊という玉縄衆の築城技官のような職務の武将です。当時の軍役に関する資料によると、大体5貫につき雑兵1名を召集することができたとされていますので、自らの兵力はせいぜい200名足らずの編成で岱崎出丸に他の中小領主とともにたてこもりあわせても数百人の人数で、圧倒的な人数の秀吉軍の前に敗れ去ることとなりますが、そこに運命づけられた爽やかな敗者の美学を感じます。
それにしても整備・復元された山中城の画像などを見る限り約20倍の大軍に対処できるものではないと思うのは現代人の感覚なのでしょうか。またサイトの「埋もれた古城」などを見る限り北条流築城術の粋を集めた土塁や空掘(畝掘・障子掘)が単なる土木工事ではなくて、芸術作品に見えてしまうのは私だけでしょうか。