山椒魚 (新潮文庫)
井伏鱒二の短編集。表題作のほか、「朽助のいる谷間」「岬の風景」「へんろう宿」「掛持ち」「シグレ島叙景」「言葉について」「寒山拾得」「夜ふけと梅の花」「女人来訪」「屋根の上のサワン」「大空の鷲」を収録。
旅先での経験、という内容の小説が多いが、不思議な小説が多い。実際にあったことをもとにしているような、完全な空想の産物のような。
ほとんどの小説に共通するのは、「屈託」である。何度も出てくる。「くったく」とひらがな表記のこともある。
文章には、人を寄せ付けないような所がある。ほとんどが一人称で、主人公の屈託が作者と読者の間に障害となっている。
「なんたる咎だりますか!」(p41)のように、「○○だります」という言葉が、せりふの中に何度か出てくる。これが「○○であります」なのだろうとわかるまで、少し時間がかかった。
黒い雨 [VHS]
1945年8月6日、広島に暮らす人々の何気ない日常から物語は始まります。この日、広島に原爆が投下されました。
まもなく日本は終戦を迎えますが、人々は戦争や原爆が残した傷跡に悩み苦しみながら生活を送っています。そして本作は哀れな彼らの姿を長々と映した映画にすぎません。ですが戦争被害者を延々と見ていると、今の日本の現状を省みずにはいられず、今の日本には省みるべき点があることも確信してしまいます。
戦争をリアルタイムで経験した登場人物たちは生涯その傷を背負い、不幸な人生を送ります。かたや今の私たち、少なくとも私の周りでは戦争というものを実感することがありません。去年の夏頃はTVや新聞で特集を目にし、戦争について考えたりもしましたが、いつの間にか忘れている始末です。
もはや末期的に風化してしまった「戦争」。そんな今日を幸福に生きる私たちは、ひょっとすると不幸に向かっているのかもしれません。そして本作は、時を経てなお今の私たちに警鐘を鳴らしているように思えてならないのです。
ドリトル先生アフリカゆき (岩波少年文庫 (021))
昔からタイトルはよく知っていましたが、私は読んだことがありませんでした。3年生の男の子が読める本を探していて、今の子供には少し内容が古くなったのではと思いましたが、買ってみました。子供が読み始めたところ、とても面白いそうですぐに読んでしまいました。今は二冊目の「ドリトル先生航海記」を本当に夢中で読んでいます。あまり夢中なので意外だったほどです。名作は古くならないと実感しました。私も読んでみることにします。
本日休診 [DVD]
正直な話、渋谷実監督の実力が発揮されているとは言い難い作品です。
渋谷監督の持ち味であるシニカルさが薄く、「いかにも松竹」といった
ヒューマニズムが前面に出ているところが鼻につきます。
しかし、それをカバーしているのが、役者の演技力。
戦争ボケの若者を真剣に演じる三国連太郎。
ちょいとヤクザだが惚れた女には弱いカッコイイ鶴田浩二。
薄幸な役どころの淡島千景など。
この時代の日本映画界には本当に上手い役者さんたちが大勢いたことを
うらやましく思います。
松竹ホームビデオさん、お願いですから、他の渋谷実監督作品も
DVD化してください。
「もず」「気●い●落」など、未見の作品が多いのです。
・・・無理だろうな・・・。
黒い雨 デジタルニューマスター版 [DVD]
こんなことってあるんだろうか?
初めて井伏鱒二の作品を扱って生徒に説明した時、彼の奥さんが亡くなり、そして今回は監督が亡くなった。
生徒には「黒い雨」の存在の大切さを知ってほしくて、私なりに色々話はしていたが、やはり監督の死により、連日報道された映画の偉大さの方が印象に残ったらしく、今度の選択授業で「黒い雨」を見ることになった。
「黒い雨」は、戦後六〇年以上たった今も、私達に伝えることの多い作品というわけである。監督の御冥福を祈りながら、鑑賞したいと思う。