天体議会
原作の透明なイメージを音にするのならば、きっとこういう形になるのだろう。
文章で読むものと、音で聞くもの。違いがあって当然なのだけれど、原作のイメージをきちんと伝えていると思う。
個人的には原作から受けたイメージと大きな違いはなく、遜色なかった。
ただ、各話冒頭のナレーションは、文で読んでこそのものであるかもしれない。少々早口気味に伝えられるそれは、イメージを掴みにくい。
原作世界に思い入れが深い人にはオススメしにくいが、各俳優さんたちの演技力は間違いなく最高のものだと思う。
少年アリス
長野まゆみ氏原作の透明感溢れる同名の作品を個性豊かな声優陣で織り上げたドラマCD。
長野氏の描く少年達の瑞々しさを「声」として置き換える試みは十分成功していると思われる。
だが、「目で追って(読んで)」美しい日本語と、「声に出して」美しい日本語には多少の差があって、原作のままの言葉回しでは少々聞きづらいところがあったのが残念に思う。
声優陣が豪華な分、また、原作に思い入れが深い場合は、キャストイメージがあっていないと思われたときにはオススメしにくい。
鉱石倶楽部 (文春文庫)
あなたは掌に石を握ったことがあるはず。
キラキラ輝く鉱石の輝きに秘密の王国の玉座を、王冠を夢見たことがあるはず。
地球から贈られた謎のメッセージを刻んだ不思議な模様、
秘密が閉じ込められた異世界の結晶、透き通った繊細な石の心に、
不可思議な形に魅せられて、食べてしまいたいという狂おしい思いに駆られたはず。
魔法の国の禁断の食材かもしれないと、調理法がわからずにいた、
そんな石が大好きな、好物の魅力に取り付かれた人に、
ひと時の癒しの時間を。胸がすっとする透明な物語を。
あなたは読んでいるうちに、鉱物の世界のパティシエになれるはず。
そんな不思議の国の鉱物倶楽部にようこそ。
野川
マユミさんの作品の中では、もっとも現実味を帯びた内容だと思う。
もともと、『不思議の国のアリス』みたいに動物がしゃべったりはしなかったけど、
語彙もファンタジー的要素を削って、フィクションに努めている。
不思議を語る人がいるだけ。
もちろん、それだけで十分イメージを呼び起こせることを証明している。
本の見返しと扉の波打つ模様が「野川」だ。
でも、帯の紹介文は、そんな話だったっけ? という気持ちになる。
そんな夢見がちな話だとは思えなかった……
見たいものがある。でも、見えない。
それは、すでに失われていたり、はじめから無いものだったりするからだ。
想像によるヴィジョンを作り上げることで、不可能なものをも見る。
だからピジョン(鳩)が登場する?
音羽君は後継者として、
「意識を変えろ。」をはじめに、いくつもの助言に耳を傾けて、
地に足をつけて暮らす、生き方を得ていく。
人間は、地上に重力で縛られているのを感じた。
みんな名前が地理的だし。
帯には「最高傑作」とも銘打ってある。
『野川』は緑陰を感じさせるし、話の上手い教師が登場するいい作品だけど、
以前、同じ言葉を書いた『白いひつじ』のレヴューを書き直そうとは思わない。