歌の調べのように
私の父はクラシック音楽が大好きで、私が物心ついたときにはさまざまなSPレコードがそろっておりました。幼い頃、父の膝の上でレコードを聴いたことを懐かしく思い出します。愛のあいさつ、トロイメライ、白鳥、ユモレスク。。。そして私がいちばん大好きだったのはバッハのアリオーソ。あのレコードの演奏はどんな楽器で奏されていたのでしょう。私の心には、ただただ美しかったという記憶だけが残り、その音色は意識の底に深く深く沈んでしまいました。ほんとうに、好きでした。
このたび、知人のつよい勧めで水谷川優子さんのアルバムを手にしました。私の大好きな曲ばかり。耳にしたとたん、図らずも父の膝のぬくもりを思い出しました。収録されている曲が、そしてなによりも水谷川優子さんのチェロの深い音色が、私の遠い記憶を呼び覚ましたのでした。
父は私が幼いうちに戦争にとられ、帰ってきませんでした。父が大切にしたSPレコードは、空襲で家と一緒に燃えてしまいました。
それでも私には、あたたかな思い出があります。それを、このCDが思い出させてくれました。
水の薫り
礒絵里子(Vln)、水谷川優子(Vc)、水永牧子(Cemb)の若手女性トリオによる
アンサンブル「アクア・トリニティ」による初の小品集です。2010年7月に
録音されており、ハイブリッドCDです。
音質が非常に良く、弦の響きが生に近いような形で再現されています。
ヴァイオリン、チェロ、チェンバロというユニークな形態のアンサンブル
であり、響きがとても斬新です。また、3人がのびのびと楽しげに演奏して
いる点にも好感が持てます。特にピアソラの「リベルタンゴ」が非常に斬新
な響きで躍動感を持って演奏されているのには感心させられました。
今後、このアンサンブルがどのように熟成していくのかが楽しみです。