BOX~袴田事件 命とは~ [DVD]
この作品は高橋伴明監督が社会に(特に司法と裁判制度)叩きつけたノンフィクション映画です。
題材になった事件が起きたのは1968年と、今から40年以上前の実際の殺人放火事件です。
その当時、地方裁判所で事件を担当して死刑判決を言い渡した主任裁判官自ら「あれは冤罪」と判決をひっくり返す発言をメディアで発表してます。
評価から先に触れると完全に★5つ!
コメディ色は一切なく娯楽としては少々退屈かもしれませんが、実録作としてはリアリティは最高です。
現代では司法の取り調べが問題になっていますが、犯人検挙の実績が早く欲しい警察と起訴実績が欲しい検察の身勝手な調書が露呈してます。
更に裁判官にもあってはならない私利私欲が絡んだ判決と、身内をかばう体質がなせる再審請求棄却の連続。
今作中に出てくる「暴力的な取り調べ」は映画の世界の作り話ではなく、実際に日常的にあります。
ただ、現代では凶悪犯罪や誘拐など人命に緊急性がある時だけでしょうけど。
しかし推定無罪の原則はどこに行ったのやらって事件で疑わしきを罰してしまった裁判を映画化してますので、裁判員制度が導入されてこれから誰しもが無関係ではなくなった昨今、成人全員に観て欲しい問題作です。
特に特典映像では、問題の元裁判官本人が出演して涙を流して老いた身体に鞭打って今回の死刑囚を擁護する活動に奔走してます。
本当のところは有罪であるか無罪であるかは「不明」というのが個人的な意見ですが、再審理は絶対して欲しいと切に願います。
重く難しい題材の映画ですが、是非幅広い映画ファンに観て欲しい逸品です。
おくりびと [DVD]
壬生義士伝の滝田洋二郎監督の作品。主人公の男性(本木雅弘)はプロのチェロ奏者になる夢に挫折したため、亡き母が残した実家に戻り職を探す。若い妻(広末涼子)に内緒でしかたなく遺体を棺桶に移す納棺師の職につくが、納棺師は忌み嫌う者が多い職業であった。最初はいやいや仕事をしていたが、上司(山崎努)の真摯な姿勢や、多くの死者とその家族に接しながら、納棺師という仕事のすばらしさに気づく。しかし、妻や友人がその職に気づくあたりから人間関係が壊れていくが、意外な展開ですべてがクライマックスに終結する。
非常に美しい映画で、時間内に登場する出来事や台詞に全く無駄がないどころか、あらゆるものが複雑に連携し、見るたびに多くのメッセージに気づかされる。主人公がこよなく愛するチェロは、子供の頃に家を捨てていった憎むべき父親が買い与えたものであり、父に対してはきわめて複雑な感情を抱いている。また、食事のシーンは生物の屍体を『いただいている』という強烈なジレンマを感じさせる。仕事の美しさや家族の愛情とは何なのかを、納棺師という特殊な職業を通じてみんなで学ぶ作品であった。また、涙あり、笑いありで最初から最後まで休みなく心が揺すぶられる作品であった。
間違いなく2008年で最も美しい作品で、今までに見たすべての映画の中でも五指に入る秀作。アカデミー賞外国語映画部門での評価に期待できる、日本を代表する作品と思う。チェロが奏でるメロディーも秀逸で、既にCDを購入した。きわめて完成度が高く、文句なく星5つ。