脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち
この手記が傑作であることは自明であるとして、おせっかいなことは百も承知で参考意見として二つ。
1・ゴビ砂漠で二人の命を奪った病気(足のむくみから始まり、やがて死に到る)は、おそらくビタミンB1欠乏症である脚気である(だからもっと早めに蛇を食べ始めてたら二人は死ななかったであろう)。
2・もともとは冒険ノンフィクションとしてではなく、スターリン体制を告発するために出版された本であるということを念頭に置いて読んだ方がよいであろう。
この本が出版された1956年は、共産主義とスターリニズムの暗黒面は国際社会にはまだあまり知られていなかった。著者が住んでいたイギリスはとりわけ左翼勢力が強く、おそらく著者は「反共主義者」としてさまざまな嫌がらせや非難を受けたものと思われる。今となっては信じられないが、当時はそういう状況であった。だからこそ著者は大踏破行よりも反ソ・反スターリンに力点を置いたのであろう。以上。
シルクロードの水と緑はどこへ消えたか? (地球研叢書)
非常に面白い本でした.
“水”環境の変遷に的を絞ったシルクロード・砂漠の本というのにお目にかかったことがなかったので非常に興味深く読むことができました.
砂漠を流れる河川の特徴,オアシスの姿,それから地下水.
第1章〜第3章では,湿潤な日本とは全く異なる水の振る舞いをとてもわかりやすく解説しながら,シルクロードの環境変化の変遷を最新の研究成果を織り交ぜながら記しています.
第4章では,中国から日本にやってくる黄砂について,地球環境におけるその不思議な振る舞いを紹介しています.
そして,とくに面白かったのが第5章.
水問題は,昔も今もかわらずに多く存在するもの.有史以来の人類最古の問題といっても良い.なのにいま,あれもこれも“世界水危機”だといって騒がれる.その実態は何なのかを,その変遷と共に冷静に述べています.
石油危機や地球温暖化などとは性質が異なる水の問題について,考えるきっかけをこの本は与えてくれると思います.
性質が違うが故に,希望もあります.“危機だ,危機だ!”といってあわてふためく前に,その本質を少し考えてみてはいかがでしょうか?