さまよう刃
主人公、長峰の復讐に賛成している自分がいた。犯罪を犯した少年たちを法律が裁ききることができない、加えて遺族の傷をないがしろにしている法律に強い憤りを感じてしまったためこのような気持ちが生じてしまったのかもしれない。「さまよう刃」この作品はとにかく最初からグイグイとその世界に引きずり込み気がつけばめくるペ-ジがないといったそんな感じであった。終始、主人公のやりきれない想いが痛いほど伝わってくる。いろいろな人物の角度から切り替わって事件をみていることもこの作品の地盤をより強固なものにし盛り上げていた。この人物がこの作品の中にいる、そこにはれっきとした理由があって人物にもまるで無駄がない。理不尽な少年たちの言動も実によく捉え表現していた。
ラストは自分の望んでいた結末とは違ってしまって悲しい気もしたが間違いなく秀逸な作品であった。
さまよう刃 [DVD]
この映画の最大の問題はリアリティの欠如だと思う。寺尾聡の演じる父親が娘を殺した犯人を探して冬の信州をペンションからペンションへと転々とするのだが、普通だったら車で行くだろうところを、この人物は徒歩である。夏でも徒歩でペンションを歩いて回るなどとてもできるものではない。まして冬なら尚更だ。また、警察がこの人物を追いつめる場面でも、軽トラックに乗って逃げるのだが、それを二人の巡査が黙って見送っているだけである。まさか、彼等も山中のペンションまで歩いて登って来たわけではないだろう。なぜ、パトロールカーで追うことをしないのか。原作を読んでいないので比較するわけにはいかないが、この例のように、映画としては首を傾げざるを得ない場面が非常に多い映画である。原作自体がリアリズムのないものなのかもしれないが、シナリオにも演出にも問題があるのだろう。寺尾聡の力演が無駄になったようで残念である。日本の刑法が犯罪者に甘すぎるというメッセージだけは伝わってくるが、作り方がずさんで感心できない。
さまよう刃 (角川文庫)
レイプの挙句に殺された娘の敵をとるために、父親(長嶺重樹)は娘を殺した少年を殺そうと策略し、それを実行しようとする物語である。要するに、復讐殺人をしようとしているのである。
私は父親の気持ちはわかるなあと思いながら読んでいました。復讐せずに、警察に任していたほうがいいのではないかという気持ちもある。しかし、未成年ということで、少年法が適用されて、時期がきたら犯罪者はまた社会に復帰することになる。少年が罪を犯す場合は、殺人を犯したという罪の重さと被害者が受けた心の傷とが全くつりあっていないように思える。それには、少年法というものがあるからである。罪の重さと心の傷がつりあうことはないとは思うが、成年の場合には、それなりの均衡点で罪が決まるのであろう。被害者の心の傷は、一生消えないのは確かだから。
最後のクライマックスシーンは、いろいろ考えさせられるなあという気がした。全てが解決したかといえば、解決したのであろう。私は、こういう結論もありだと思っている。しかし、被害者の父親のこと、正義のこと、警察の在り方、少年たちの在り方、かくまった女性のこと等いろいろ考えるところが多々でてきたなあと思う。被害者の父親は無念でならないなあという印象が強い。
最後の言葉が印象的だったかな。「警察は、市民を守っているのではない。警察が守ろうとしているのは法律のほうだ。」法律にがんじがらめになって、市民の幸せを守っていないという現状はあるかもしれない。