バレンボイム音楽論──対話と共存のフーガ
モーツアルトを「身近に感じる」と言う資格がある人、ということではこの人が一番だろう。生きている天才、バレンボイム。10代ですでにピアノの大家で、以来、ずっと世界中で活躍してきた。指揮者としては毀誉褒貶ある。だが本当は、人々は彼の天才ぶりに「飽きている」のだと思う。モーツアルトだって、子供のころから天才だったから、30代で聴衆に飽きられていた面があったはずだ。バレンボイムはその2倍生きている。
そういうバレンボイムの頭のなかを覗き見させてくれる。本書は、サイードとの対談の延長上にあって、とくに前半は音楽論にかこつけた中東和平に関する政治談議だ。日本人にはちょっと遠い話でもあり、「音楽ではタイミングが重要だが、オスロ和平交渉にはそれが欠けていた」といった文章を読まされては困惑させられるのが普通だろう。
だが、それでも、随所に示される彼の音楽観には引き込まれる。サイードとの対談本や「自伝」と重なる話もあるが、批評家・学者の言葉にはない、名演奏家の言葉として説得力がある。批評家のように無駄に言葉を飾ることはない、極めて実際的な音楽論というか。とくに、量は少ないが、純粋に音楽だけを語った「第二部 変奏曲」は、どのページも面白い。まさにモーツアルト流の軽妙な精神で語られた「モーツアルト」が白眉。
アバドからラトルへの道~ベルリン・フィル首席指揮者決定までのドキュメント [DVD]
なんでもBPOは月例で楽団員会議を開くらしいが、もうリアル『のだめカンタービレ』というか、個性の強そうな楽団員の多いこと。1882年創立のBPOの主席指揮者といえば、フルトベングラー、カラヤンがあまりにも有名だが、新しい時代の指揮者を選ぶということは、BPOが「ベートベーンとブラームスにこだわるのか、それとも新しい方向にいくのかという未来を選択することでもある」という話や「新しいシェフと何かをつくっていく気持ちで選ぶ」なんていう言葉は印象的。
この時点で候補者はマゼール、バレンボイム、サロネン、ハインティンク、メータそしてラトル。「オーケストラの技術があがってきているのでマエストロはもう必要ない」というサロネンの言葉は面白かった。楽団員も「トスカニーニのような指揮者はいらない」といっていたし、まあ、そういった流れなんだろう。
ということで、どの指揮者とも関係を保ちたいBPOとしては、誰が何票獲ったかということは公表しないことを決めて最初の投票に臨んだが、1回目では決まらず、バレンボイムとラトルの決選投票になり、最終的にはサイモン・ラトルに決まったというのもデリケートに発表していた感じ。
ベスト・オペラ100
星5つではまだ足りない。あったら7つか8つ上げたいようなセットである。
ほとんどの廉価版オムニバスCDが、雑誌のおまけのような、「さわり」の部分だけを集めた小間切れ集なのに対し、このCDは、アリアや二重唱を前奏から最後までしっかり収録しており、ドニゼッティの「ランメルモールのルチア」の狂乱の場は16分43秒がノーカットで納められている。
曲目もモーツァルト「魔笛」の「夜の女王のアリア」、「おれは鳥刺し」、ヴェルディ「リゴレット」の「女心の歌」、ビゼー「カルメン」の「ハバネラ」と「闘牛士の歌」など定番の名曲は総て入っているほか、オベールの「ポルティーチの物言わぬ娘」(序曲は運動会用のマーチとして一部が使われている)など、よほどのオペラおたくでも知らない珍しい作品も収録されており、しかも演奏者は、カラス、シュヴァルツコップ、ドミンゴ、カレーラスなどこれ以上ない顔ぶれである。
録音は多少古いものがあるが、却って現在のAV時代の、見せるため、あるいは劇としての総合性を大事にする演奏よりも、個性豊かな名歌手たちの特長を十分に引き出すようなこの時代のほうが、ステレオ初期からレコードでオペラをを楽しんでいる人には好ましい。オペラ入門者だけでなく、オペラ通も十分に楽しめ、鑑賞できるすばらしいセットである。
惜しむらくは、8つ折り2枚の解説書が、曲のデータと解説が別々になっていて見にくいこと。また、解説書の中に、歌手たちの簡単なプロふぃkるを紹介してくれるともっと良かったと思う。
4大ヴァイオリン協奏曲集
なんといっても目玉は、ミルシテインが弾いた3曲。
彼の演奏は、どちらかというとクールに速いテンポでスラスラと弾いていくタイプだが。この魅力は、いわゆる「濃厚な節回し」とか「たっぷりとした音色」などが持ち味のヴァイオリニストからは聴くことはできない。同じく“クールな演奏”とよく言われるハイフェッツという超人が同方向の演奏家として君臨しているだけに、幾分割を食っている面もあるのだが、ここで聴かれる彼のヴァイオリン演奏は、あの超人の演奏に全く引けを取らない。
中でもブラームスの演奏が出色の出来だ。何より音程が素晴らしい、やたらとアクセントなどはつけていない分余計そう感じる。メンコンなどは音程と音色が命の作品だけに、彼の演奏は作品の要求に完全に合致していると感じさせられる。
付け足しのようになってしまったがズッカーマンのベートーベンもスタンダードとして押せる十分な演奏。
これだけのハイレベルの演奏によって一気に四曲聴けてしまうCDはそうはないはず。