中世騎士物語 (岩波文庫)
中世とは騎士道物語が全盛の時代なのですが、これは英国の古い作品(アーサー王物語やブリタニア列王史など、ケルト系を含めた神代の物語作品)をまとめて、文学作品として一貫性をもたせ、解説をつけたものです。
内容としてはよいものです。アーサー王伝説もよくまとまっており、また(原本が作られた当時では)最新のテクストであったマビノギオンも収録、物語として収められており、充実した内容となっています。
こういった作品に初めて触れるという人には格好の本だと思います。
ただ、何とかならないかと思うのが本の題名です。もとはThe Age of Chivalry(騎士の時代)というもので、騎士道がどういったものか、といったのをメインにすえたものです。内容も先述したように、マビノギオンやアーサー王伝説を含めて、いわゆる神代、つまり伝説的なものです。
しかし、中世に流行したものはこういった伝説だけをもとにしたものだけではありません。スペインのアマディス・デ・ガウラなど、時代背景、内容もさまざまな作品があります。つまり神話だけが騎士道物語ではないわけですが、この本にはそういった作品は収録されていません。ある意味看板に偽りありというわけです。この本では、騎士道物語の一端はうかがえるでしょうが、この本が収録しているものは、ドン・キホーテがほれ込んだ騎士道物語のあくまで端の部分だけであるということをこの題名はあらわしていないと思います。
秀吉と利休 (新潮文庫)
この作品は決して難解ではないが、独特の硬質な文体は、はじめ、斜め読みを許さないある種の圧迫感を読者に感じさせる。しかし、読み進めるうちに、利休という歴史上の人物は、日常生活のさりげない細部と心理の描写のなかでまざまざと造形され、利休とはまさしくそれ以外の人ではありえなかったろうと読者は確信するに至り、硬質な文体から感じた当初の圧迫感は、実は著者の尋常ならざる作家魂の厳しさに他ならなかったことに気がつく。この小説の中には、黙読するうちに思わず朗読して確認せずにいられないほどに格調高く、悲劇的な描写が数多くある。このような小説はそれほど多くはない。
権力への阿諛と矜持に引き裂かれる自我は、この作品だけでなく「迷路」のテーマでもあり、時代を問わず、常に私たちの矛盾でもある。野上弥生子という、戦前、戦後の日本社会を誠実に見届けた強靱な知性によって始めて可能な傑作というべきであろう。
ギリシア・ローマ神話―付インド・北欧神話 (岩波文庫)
こどもの頃なかなか寝付かれず、本を読みながらふとんの中で何時間も過ごした記憶があります。このブルフィンチ「ギリシャ・ローマ神話」はその頃の定番本でした。多分この本の子供向けヴァージョンだったんでしょう。後年大人になってこのオリジナルを読み返してみると、当時「夢の世界に旅立つ夜の滑走路」と夜眠る前に肌身離さず?大事にしていた小学生の自分を思い出し、あのような濃密は読書の体験はもう二度と訪れないのではないか?という気持ちになります。
訳者のお母さんのような語り口も優しくてお気に入りでした。でも現在の若者にはちょっと古過ぎる日本語かも。夏目漱石絶賛のギリシア神話。これであなたも、夜間飛行のパイロット?