
暁英 贋説・鹿鳴館 (徳間文庫)
「絶筆、無念。」と言う言葉が、帯に踊っています。
まさに、その言葉がぴたりと当てはまります。
それほどの作者の会心の作であり、未完になったことが惜しまれます。
もちろんミステリー作家としての作者の筆は冴えています。
各所に張り巡らされた伏線は、実に緻密でなるほどと唸らされます。
しかし、それ以上に感じ入ったのは、この作品が「明治維新」と言う「革命」の本質を見事に突いているからです。
六十余州の小国からなる地方分権国家たる江戸幕府の体制が、完全な中央集権国家となる産みの苦しみを、権力の「光と闇」と言う形で見事に活写しています。
その地方分権が究極まで突き進められていたからこそ、江戸時代は江戸城と言う狭い空間で政住一体の「小さな政府」が存在しえたと言う事実を、この本を読んで「目から鱗」として認識しました。
それからほぼ百五十年、地方分権が叫ばれるに至り、この本の意味は大きいと思います。
先人達が地方分権から中央集権に向かわせた努力を知ることにより、中央集権を見直し地方分権を図る上にも示唆する所は大きいのではと思います。
それにしても・・・です。
作者の構想からすると、三分の二まで書けたのでしょうか。
まだまだ謎が残り、しかも作者が書こうとした最大の謎が残ったままです。
全く、残念の一言です。