アンダルシアの犬 [DVD]
ジャケットにはシュールリアリズムとかシュールレアリズムとか書いてあったと思いますが、表記が統一されていないのと、どちらも間違いだと思います。シュルはフランス語なので英語のリアリズムと一緒にするとおかしいです。シュルレアリスムと表記しなくてはいけないのではないでしょうか。
通常の物語がたいてい回収されるのに対し、シュルレアリスムは物語を回収しないことで隠された無意識を垣間見ようという、ある意味大変理論的な(頭でっかちな)手法だと理解していますが、この作品はあんまり頭でっかちになっていなくて、見ていて凄く面白いですね。
冒頭の女の目を切る場面など、スプラッター映画の原点ともいえます。グロテスクな場面の連続はつながっていないようでつながっていて、ただイメージを並べているだけじゃなくて、ちゃんとイメージが広がって映画を前へ前へと進めています。
女の脇毛がなくなって、男の顔に生える、とかいうアンマリなお笑い場面もあったりして、楽しめます。ダリやブニュエルの茶目っ気も伺えました。古い映画なので映像は劣悪ですが、今見ても非常に面白いです。15分の短さなので、物語がなくても全然飽きませんし。
15分の短編なのにこれまでのDVDは結構高かったのですが、安いWHDジャパン版が出たのは大変に喜ばしいことです。
死神の谷 [DVD]
谷にある村に高い塀の居場所を築いた死神。この死神に婚約者を連れて行かれた女性が彼を捜し求めて死神と対峙するというストーリー。前半の死神の築いた塀の前に訪れる死者の群れや、ローソクの間で死神と向き合う主人公の女性シーンは幻想的で美しい。「メトロポリス」でアバンギャルドな映像を打ち出したフリッツ・ラング監督がこの作品では幻想的な映像に誘ってくれる。
死神と主人公の女性の思いに絡めて展開する愛と死という永遠のテーマを表す3つの冒険(オムニバス的な作風)は古典的な悲劇(ある種シェークスピア的なあるいはギリシャ神話的な)ではあるものの、そこに現れる人々の前向きな生き様は主人公の婚約者に対する思いを完全に表現する。
そして、死神の与えた最後の試練は永遠のテーマであり、どの映画作家も追及するテーマでもあるが、これだけ直接的に観る者に突き付ける作品はない。
この作品のもう一つの面白さは、サイレント時代の貴重な作品であるだけではなく、20世紀初頭のヨーロッパのアジアに対する見方が実感できるところ。3つの冒険はアラブ、イタリア、中国で展開されるが、特に中国の描き方(中国人をドイツ人が演じているところも面白いが)は中東とアジアの混在する世界になっているところは当時のヨーロッパから見た不可思議な東の世界がはっきり現れていて面白い。フリッツ・ラングもサイレント時代の作品としては「メトロポリス」とならぶ衝撃的な作品であることは間違いない。
ところで、このDVDで観る限り映し出される映像が正方形であるところが不思議だ。フィルム映像を観たことがないのでわからないが、何故この形なのだろうか?
アンダルシアの犬【淀川長治解説映像付き】 [DVD]
ダリはスペイン市民戦争あたりを境に保守したがシュールリアリズム時代、とくにブニュエルと組んで前代未聞、空前絶後(表現が陳腐でごめん)の衝撃的映像を放った。「アンダルシアの犬」はわずか15分の短編。しかしその映像空間は「悪夢」というか「シュールリアリズム・ピロー」(ジェファーソンのCD)というかいいようがない。問題の女性の眼球をかみそりで切り裂くシーンは豚の眼を切ったもの。「糧なき大地」など見ると映画は戦前で大体終わったことを痛感する。だから「もうパロディしかない」ゴダール。