八日目の蝉 通常版 [DVD]
話題になっていたので見てみた。
子を産めない身体になり発作的に愛人の子を誘拐した女(貴和子)。
誘拐犯の女に4年間も育てられ、戻された実の母にはなじめず、不倫の子をお腹に宿した娘(薫)。
誘拐犯を慕う娘を素直に愛することができない実の母(恵津子)。
非常に特殊な設定だが、3人の女を通して描いた「母性」が本作のテーマだろう。親子という社会秩序的な関係性とは違って、母性というのはもっとこうドロドロした女の情念とか業といったものに直結している気がする。本作のドロドロ感は、たぶんそういうことだろう。親子の情愛といった「美しさ」とは違う気がする。
原作にはないが、薫が貴和子と撮った記念写真を古い写真館で発見するシーンがある。ネガから母子の肖像が浮かび上がる瞬間、ここは泣けた。
ウソ(=ドラマ)でしか描けないホントウがある、と和田勉がいったそうだ。こういうほとんどあり得ない設定だからこそ浮かびあがる母性の「リアル」をみたような気がした。
マスカレード・ホテル
相変わらず巧緻なつくりで、安心して読める一冊。ホテルに取材し、小ネタを散りばめつつ、多数の伏線をしいて、それらがラストで一気に収斂する。ちょっとラブ色も。トリックのつくりや新キャラの造形はイマイチだと思うが、それでも十分1日楽しめる一作。新キャラ新田は、正義感や青臭さ、人間臭さがもうちょっと強く出てもよかった。それより面白いのはコンビの能勢。シリーズにするなら、能勢を前面に出した作も出るのでしょうね。東野三部作、どれも一定の水準にあるが、ホテル・新キャラのうまみで、本編を一位に推したい。東野ファンならもちろん必読。
容疑者Xの献身 (文春文庫)
『容疑者Xの献身』です。第134回直木賞作品です。他にも諸々の賞を獲得し、5冠作品とも称されるようです。
探偵ガリレオシリーズの第3作ですが、単独でも読めます。
殺人事件が起き、犯人の母娘が当然疑われますが、隣人が庇い、色々な工作で警察の追及をかわしていきます。
一方警察は、時に真相に近付いたり逆に離れたりしながら、捜査を進めます。
両者の駆け引き、っぽい部分が見所、ということになります。
出来事を淡々と語って行くので、キャラの葛藤や心理に関する描写は薄いです。
トリックは、ある程度伏線が読めますが、読者的には犯人探しではなくトリック見破りなので、完全な正解を出すのは難しそうです。
ラストは、落ち着くところにきちんと辿り着いた感じです。
数学の数式のように、かっちりと出来上がっている作品です。良い意味でも悪い意味でも読者が裏切られる、ということは、まず無いと思います。
下町ロケット
芥川賞、直木賞とも選ばれた作品はずーっと読んでますが、今回のこの作品を読んだ感想としては、直木賞って言うのはふところが広いなと。ここ数年どれも同じような作品は見当たらないですからね。その中でも私はこの本が気に入ってしまいました。私が理系出身ということも関係しているかも知れませんが、一日で一気に読んでしまいました。また、読後の爽やかなこと!おすすめ。
八日目の蝉 [Blu-ray]
幼児誘拐犯の側から擁護的に描かれていて内容が内容だけに物語に賛否が分かれると思う。
しかし、人の感情は一様では無くそこに生まれたドラマは興味深い。
不倫相手の子供を堕胎した逆恨みから生まれて間もない本妻の赤ちゃんを誘拐した事で母性が芽生えていく。
例えそれが逃避行を支える為に芽生えた母性であったとしてもどこか儚くその愛は美しく見える。
そして親になる準備ができずに自分の子に手をかける犯罪もあるが、それは準備ではなく親になる覚悟なのだとこの映画は語っているようにも思えた。
映画の冒頭の法廷で希和子が謝罪ではなく感謝を述べた理由を全編を通して納得でき、スタッフロール直前の真っ黒な画面を観ながらスーッと涙が流れた。
邦画の数奇な運命を描いたドラマの中では秀作の部類に入ると感じました。
映画を観ていて感じたのが、出演者たちの迫真の演技。
主要キャストの井上真央さん永作博美さん、渡邉このみちゃんの演技だけでなく、脇役の小池栄子さんが味のある演技をしていて驚かされた。
バラエティのコントなどで器用なタレントになったなと思っていたら名ばかりでなくちゃんと女優として歩んでいたのだなと感心させられる演技だった。
逆に劇団ひとりさんがバラエティのコントっぽさをかもし出していてそのシーンだけどこか浮いた印象を抱いた。
どういう経緯でキャスティングしたのかわからないけど、この作品の中で唯一と言っていいほどのミスキャストに私は感じました。
全体的に高いレベルで演技がされていたのでストーリーに集中して観る事ができました。
そして、逃亡先の場面場面に映りだされる風景がとても綺麗。
女性をターゲットにした画面作りを意識しているようでこのようなテーマを扱っていながらどこかホッと息を出せるシーンを意図的に組み込んでいるように感じました。
シリアスな展開で息が詰まるだけでなく息を抜く間を効果的に作っている高度な編集をしていると高評価します。
これだけ高く評価していてなんで☆4なのかというと、タイトルの八日目の蝉と内容が観た後でもスッキリとしない。
映画として上手くまとめていたように感じた一方でこの「八日目の蝉」というタイトルに踊らされてどこかモヤっとした感じが残る。
「おくりびと」みたいにわかりやすいタイトルにしていたら、もっと多くの人に観てもらえたのではないかと今も残念に思う。