孤独のグルメ (扶桑社文庫)
個人で雑貨輸入を営んでいる主人公が、仕事の合間に食事をする、そのときのエピソードを語ったものだ。
いわゆるグルメ漫画の多くは、口の中に味が想像できない料理や描写が多い中、『孤独のグルメ』は全18話全てが我々が普段口にするような食材を題材とした「日常性」を基に話が進んでいる。
例えば第1話では、主人公は、山谷まで仕事できたが、全くアテがはずれ、雨が降る中仕方なく一軒の食堂へ向かう。居心地の悪さを感じながら、主人公は店内や客層、注文表を観察しながら注文を出す。
「みんな帽子を被っているのはなぜだろう?」「持ち帰り! そういうのもあるのか」「うーん…ぶた肉ととん汁がダブってしまった」
この一連の街の様子、店内の客の姿、自分がその店をたずねたときの事情や精神状態の描写が、他のグルメ漫画にはない、食事の日常性が生まれている。実際この漫画を見て、「一度はそれを食べてみたい」と思わせる表現力とシンプルさがすごい。
犬を飼う (小学館文庫)
五篇収録しているうちの最初の作品、「犬を飼う」が実に感動的で、涙があふれました。14歳になった老犬タムと、主人公の私と妻が過ごした最後の日々を描いた漫画。足が弱ってきて、散歩も満足にできなくなるタム。やがて排泄物のたれ流し、寝たきり状態へと症状が悪化し、日一日と死に近づいて行く・・・。14年間、家族の一員としてともに過ごしてきた愛犬を、少しでも苦しみを減らして死なせてやろうとする主人公夫婦。読みながらあまりの切なさに、胸がいっぱいになった作品でした。
そのほか、不細工な雌のペルシャ猫ボロと過ごす毎日を描いた「そして・・・猫を飼う」、母猫になったボロと三匹の仔猫の話「庭のながめ」、妻の姪っ子で中学一年生の秋子と過ごしたひと夏の出来事を綴った「三人の日々」、ヒマラヤのアンナプルナ登頂での神々しい生き物との出会いを描いた「約束の地」を収めた、文庫サイズの一冊です。
五つの作品すべて『ビッグコミック』誌に掲載されたもの。「犬を飼う」が1991年6月25日号、「そして・・・猫を飼う」が1991年12月25日号、「庭のながめ」が1992年4月10日号、「三人の日々」が1992年9月25日号、「約束の地」が1992年7月25日号に、初出掲載されています。
また、著者の谷口ジロー氏が表題作について語った巻末のあとがき「思い出すこと」は、表題作を読んでから目を通したほうがいいんじゃないかな。そのほうが、名品「犬を飼う」の余韻もひとしおって感じで、味わいがより深まる気がするからです。
孤独のグルメ 【新装版】
モノを食べる時にはね、誰にも邪魔されず
自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ
独りで静かで豊かで…
このセリフ!まさに期待通りの久住昌之。
私は「芸能グルメストーカー」から流れ込むようにこの作品に触れた口なのですが、
06年10月時点で実に第14版、作品の息の長さが伺えます。
「ダンドリくん」「かっこいいスキヤキ」等、日常性の中に潜むおかしみを
ダンディズムを交えて語ってきた久住昌之氏と、
狩撫麻礼・メビウス・夢枕獏など錚々たる面々の原作を手がけてきた
職人・谷口ジロー氏の(一部漫画好きにとっての)夢の邂逅。
明確なオチやストーリーなどはありません。
盛り上がるでもなく、しかし決して退屈にもならず、
久住氏の重箱の隅を突くようなこだわりと谷口氏の超精密な絵でもって流れていきます。
それがもう、どうしようもなく、いい。こんな贅沢な漫画もそうそうありません。
ただし、「一家に一冊」という類の本ではないですね。
男がひっそりと独りで読むような、ある種の隠れ家的愉しさに満ちています。
男の本棚に、静かに一冊。