君も出世ができる [DVD]
以前、他に書いたレビューを転載します。
意外と一部の玄人すじにも否定的な評価があるようですが、とにかく夢のような東宝シネ・ミュージカル。セットで作られたオフィスでの、大がかりなナンバー(“アメリカでは”)が素晴らしい。
出世の夢がやぶれかけて東京を去ろうかという男に、自分の田舎の魅力を説く女。しかし最後には、田舎の話を楽しみながら二人で都会で暮らしていこう、などという、うさんくさい(笑)解決策が輝いて見えてくる。高度成長期初頭の空気を、こういう作りものの中からでも感じ取ることが出来る。必見!
ノーヴェンバー・ステップス~日本の管弦楽名曲集
古い録音ですが、それだけに好演奏が収録されています。
無難な一枚と言ったところ。
現代曲になじみの無い方は、このアルバムを最後から逆に聞いて見て下さい。きっと、現代音楽も悪くないなぁと思うはず。
「管弦楽のためのラプソディ」は何も考えずにただ楽しんで下さい。
「木挽歌」の作者の小山氏は民族派と言われています。
ゴジラの音楽でおなじみの伊福部昭氏を真面目にした感じ。
「舞楽」、「ノヴェンバー・ステップス」と続くうちに、ほら、現代曲も悪くないでしょ。
気に入ったら、黛派は「曼荼羅交響曲」、武満派は「鳥は星形の庭に降りる」も聞いてみて下さい。
タルカス~クラシック meets ロック
ロックバンドのバックにオーケストラを据えて録音を行うことは、ムーディブルーズ、プロコルハルム、ピンクフロイド、EL&P、ディープパープル、マハビシュヌオーケストラからメタリカに至るまで大昔から行われています。それらと違って、本作はプログレッシブロックの大作を丸ごとオーケストラの楽曲にアレンジして演奏しようという野心的な試みです。EL&Pの大曲「タルカス」の他に、プログレ的な傾向を持つ3つのクラシック作品が配された構成になっており、CD1枚としてのコンセプトも明確です。
「タルカス」は楽譜が仕上がったのが本番の1ヶ月前とのこと。リハーサルの時間も十分ではなかったのでしょう、多少荒めのアンサンブルやフォルテシモ(つまり爆音)の連続に、生真面目なクラシックファンは眉をひそめるかもしれませんが、あまり固いことは言わずに楽しんでしまうのが正解でしょう。ハモンドオルガンの音がマリンバに置き換えられていたりと、編曲の妙を発見するのも一興。怖いもの見たさで買ったプログレファンにも、賛否はあると思いますが、なかなか面白い仕上がりになっていると思います。このチャレンジに対して、作曲者のキース・エマーソン氏も大変好意的なコメントを寄せられたそうです(そりゃ、うれしいわなー)。
個人的に聴き応えがあったのが、黛敏郎の「BUGAKU」。雅楽風の静かな始まりが、後半は陶酔と恐怖と荘厳さが入り混じったマグマのようなサウンドになるのにはびっくりしました(ライナーノーツで吉松氏は「ピンクフロイドに通じるような斬新なサウンド」と評しています。黛敏郎の交響詩「立山」は聴いたことがありますが、実に雄大かつ古典的な交響曲作品です)。
ともあれ、プログレに甚大な影響を受けている作曲家・吉松氏の青春の夢を実現した、暴挙とも壮挙ともいえる取り組みに、大いに拍手を送りたいと思います。
憎いあンちくしょう [DVD]
「機内食は肉か魚か/迷う事なく肉を選んだ」とは、クレイジーケンバンドの名曲「男の滑走路」の一節だが、オレにとってこの『憎いあンちくしょう』という映画は、まさにその“機内食”の“肉”に例えることのできる、これからもずっと、心の中で大切にして行こうと思っている作品のひとつである。高校生ぐらいの頃、テレビで見た往年の日活映画の魅力のとりこになり、それ以来傑作も凡作もいろいろ観たけれど、この『憎い…』はいわゆる“日活映画”、いや、“旧い日本映画”の定型にハマりきらない、いつみても新しい感動と勇気を与えてくれる傑作だ。ひょっとすると石原裕次郎は、この作品を“石原プロ作品”として世に送り出したかったのではないだろうか? と思うぐらい、ルーティンワークの対極に位置する、まったくもって斬新な作品である。
冒頭、軽いタッチではあるが、裕次郎演じる超売れっ子タレントの、繰り返す日々や、浅丘ルリ子―演技のすばらしさもだが、チャーミング、かつ美しい!―演じる恋人兼マネージャーに対して抱く倦怠感・・・・・というところから始まり、やがて中盤、裕次郎がジープで東京を発つあたりから“愛っていったい何だ?”“純愛ってそんなにエラいのか?”みたいなあたりを探求する展開となって行く。その旅の途中に何があるのか? そしてゴールには、何が待っているのか? それはぜひ、あなた自身の目で確かめていただきたい。奔放なように見えて、実はけっこう緻密に計算されたカメラワーク、そして劇中、ギター一本で歌われる、映画と同名の主題歌(作詞は当時助監督だった、後の藤田敏八)も印象的。
1962(昭和37)年7月公開。
なお、DVDの映像特典は予告編のみ(いつも思うけど、日活の予告編って、他社に比べてどうもいまいち・・・)だが、撮影スナップ、フォトギャラリー、ロビーカード、作品データなども収録されている。