神と仏の道を歩く―神仏霊場巡拝の道公式ガイドブック (集英社新書 ビジュアル版 10V)
“公式ガイドブック”を名乗るだけあり、150を超える神社仏閣の由緒縁起や見どころが、各寺社見開き2ページでコンパクトに紹介されている。
通称・俗称と正式名称を併記したり、宗派や本尊の名称を読み仮名入りで記載するなど、非常に気配りがされている。遍路巡礼者はもとより、私のような不信心な者にも、教養や常識を弁える意味でとても参考になる。
本書のウリは、寺社の建造物を写真でなく鉛筆描きの細密画で紹介していることだ。
大ベテランから若手まで約30人の描き手が分担して描いたモノクロ世界には、しかし、写真と見紛うばかりの、ときには写真が語り得ぬディティールが盛り込まれ、見事と言うほかはない。
たしかに、写真、とくにカラーでは、各寺社の一種ミステリアスな荘厳さや居住まいを必ずしも上手く表現できるとは言い切れまい。要らぬ固定観念を与える恐れもあろう。それに、建造物の最も魅力的な姿を切り取ろうとしたとき、あるいは周囲の木々や不自然な人工物が邪魔をしたりイメージを損なったりすることもあり得よう。
しかし、変な作為を加えたと見るのは筋違いだ。むしろ、印象を散漫にする懸念雑念を払拭するという意味で、この手法は成功していると思う。
残念なのは、地図の扱いだ。
各ページ右下隅に3センチ四方程度の扇形で嵌め込まれているが、紙面の制約で鉄道や道路などが十分に描かれていない。中には、近在の目標物が道路1本だけしかない、というものさえある。
また、図面により縮尺がマチマチらしく、その明示もない。他の寺社と比較して距離感や所要時間の見当をつけにくいのは大きな減点材料だ。巻末にいちおう折り込み地図はあるが、これにも縮尺明記がない。
たとえば、各章の冒頭に地域の中域図を入れ(当然縮尺表示も)、周辺との相対関係をきちんと把握できるようにするべきではなかったか。
世界遺産神々の眠る「熊野」を歩く (集英社新書 ビジュアル版 13V)
著者は宗教人類学者。日本だけでなく、世界の宗教に詳しい人だ。
本書は、特に宗教的な側面を詳説した、写真入りのガイドブックという位置づけの本だと思う。細かく章立てが行われ、興味のあるところから読んでいけばいい。実際の旅に持参して、必要なところを読んで歩くというふうにも使えるだろう。
構成としては、最初に「神仏習合」「石の力」など総合的な解説が置かれ、そのあとは「熊野古道」「一遍上人」「海の熊野へ」「串本、古座を歩く」とテーマ別の紹介となっている。
なかでも巨石が重点的に取り上げられており、あちこちに無数にあるさまには驚かされるほどだ。
ただ、それらへの著者のアプローチや分析、考察にはすっきり納得できないものが多い。もう少しじっくり研究して欲しい。
「集英社新書ヴィジュアル版」であり、鈴木理策氏によるカラー写真がたくさん収められている。新宮の出身で、熊野の写真をずっと手掛けてきた人という。美しく迫力がある。
写真が良いので、おまけで星4つ。