魂を抱いてくれ
氷室京介はヒムロックといわれる通り、ロックの世界に独自の世界を打ち立てましたが、バラ-ド曲にもそれは遺憾なく発揮されています。
この曲は「ディアアルジャノン」と並ぶ氷室京介を代表するバラードです。こんな格好いいバラードを作れるのは氷室京介以外にはそういないと思います。
是非、聴いてみてください。
魂を抱いてくれ
彼ほどハードボイルドの哀愁を甘美な歌声に湛えたヴォーカリストはいないと思います。雄雄しさだけなら筋肉で熱く叫ぶ矢沢永吉や長渕剛のようなざらついたハードボイルドもあるでしょう。しかし、氷室京介の鼻腔共鳴から発せられる儚さの音色からは、セクシーさとスマートさを湛えた品格のある美しさを感じさせます。そして曲によっては、ストイックな男が滅多に見せない内側の切なさをも、その甘い声の中に潜ませるのです。こういうダンディズムの深みのような官能的な声の持ち主はなかなか見当たりませんね。
この「魂を抱いてくれ」はそんな氷室氏の歌声が最も染み渡る代表的バラードで、特に上記のハードボイルドの世界観の中で、ずっと孤独に生きてきた男のハートが女性の温かみに触れ、初めて融解してゆく場面を描いてゆきます。落ちてゆく安らぎの旋律に導かれ、奏でる氷室氏の歌声はほのかな明るさを帯び、男が感じる温もりを伝えてきました。更にサビでは一段と積極的に女性へ求めてゆく台詞が印象的ですね。なりふり構わず心のそこから愛情を求める男性像は今迄孤独だった男だからこその心の叫びであり、メッセージの強さやリアルさがあります。さすが松本隆の魅せ方でしょう。一方サビメロと“魂を抱いてくれ”という象徴的なフレーズによるキャッチさ、特に出だしの“たましい”と歌う声が一瞬ア・カペラになる聞かせ方もPOPS楽曲としての優れた構成を思わせます。他方、氷室氏の歌い方も“魂を抱いてくれ”は男の背中でうたい、“心を読んでくれ”はその上での切なる感情で歌い上げるので非常に琴線に訴えかけました。当に名バラードです。