ヤバい経済学 [増補改訂版]
人間の行動の根本にはインセンティブと言う考え方があり、経済的・道徳的・社会的に得をする方向に動く。これは情報から読み取ることができるのだけれど、情報には不平等さがあり、損をする人も生まれる。情報から読み取る際には、通念を取り払い、物事の相関と因果関係を正しく見極める必要がある。以上の様な思想に基づき、一見すると馬鹿馬鹿しいと思えるような疑問を次々と連想ゲームのように取り上げ、あらゆる解析手法を使ってデータから解き明かしていく。全くバラバラの話題なのだけれども根底には思想的統一性があり、まるで口述筆記したかの様なくだけた文体でつづられている。
解き明かした疑問の中にはかなり物議をかもす話題もあり、中絶の容認が犯罪率の低下を招いたとか、生徒のテスト結果で学校の評価をするようにしたら教師の不正が増えた、がそれに当たる。相撲の八百長に関する話題(7勝7敗と8勝6敗の勝率は前者が圧倒的に高い、など)は、感覚的にはあるかな、と思っていることを裏付けている。
学術書と言うわけではないのでこの本の中だけで得られた結果を検証するのは無理だけれど、こういう考え方があると言うことを啓蒙するのには役立つと思う。
ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
米国における犯罪率低下の真の要因は何か、7勝7敗で千秋楽を迎えた大相撲の力士は八百長をやっているのか、子供の成績がよくなるための要因は何なのか−など面白いテーマを選んで相関分析をかけて有意なデータを導いている。テーマの中には、大相撲の八百長のように何となくそうではないかと思っていたものと、米国における犯罪率低下のようにまったく意表を突かれるものがあり、いずれもきちんと数字で示してくれるので、なかなか説得力がある。特に面白いと思ったのが、子供の名前の流行が高所得者層から低所得者層へと移ろっていくという事実。これは日本でも言われていることだが、高所得者層の子供は、成績がよい確率が高い。しかし、名前でソートした場合、かつて成績のよい確率が高かった子供の名前がその後もずっとに成績がよいわけではなく、段々と成績が落ちていく、つまり同じ名前が段々と低所得者層の間で流行するようになっていくのである。これが果たして米国だけに当てはまることなのか、それとも日本でもあり得るのか気になるところである。
経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)
最近、タイトルだけの新書が圧倒的に多いのですが、
本書はめずらしくまともな経済学者によるまともな新書です。
経済学に基づく適切な分析・検証による内容の濃い本です。
著者の「日本の不平等」を時間が無くて読めない人にはお薦めです。
出版社はこのような新書を出さず、タイトルだけで売ろうと思っているようですが、
その結果新書はすでに週刊誌レベルに成り下がっています。
まともな新書を探すことがすでに難しくなっています。