真音〈2〉 (リンクスロマンス)
谷崎さんの安定感のある文体や空気、麻生さんの派手ではないけれど存在感のある画風も相俟ってがっつり愉しめた。
静かに織り込まれて行くエピソードや、ゆるやかに変化して行く富樫と進藤の関係に無理がなく、
圧倒的な立場や度量の違いに戸惑いや意地を見せながらも、どうしても富樫に惹かれてしまう進藤が愛らしい。
それは恋というより情や愛に近いもので、富樫は必要以上なことは何も云わないし、自分からは聞かないし、
確かに狡い大人のひとりなのではあるのだけれど、富樫もまた進藤によって少しづつ変化して行くさまは、
富樫自身が思った以上に進藤に溺れていることを裏付けていて、思わぬところでヤラれてしまった!
進藤を取り巻く大人たちはみな何かしらを背負っている、決して正しいだけではない大人たちで、
槙原の『迷いのない人間の持つ傲慢さ』を嗅ぎ分ける勘の良さや、さめの云わなくてもいいことは飲み込む度量の大きさ、
富樫の『人が人を責める権利は何処にもない』と云える曖昧さが、私にはとても心地よいものに感じられた。
進藤が富樫に(自分と同じものを感じて)引き寄せられるところも、恐らく富樫もまた進藤に自分と同じ何かを感じて、
情に近いところから生まれた仮初に愛と呼ぶようなもの(互いにその自覚なし)によって惹かれ合う姿にジンと来た。
だから最初の頃からの強引なセックスよりも、回を重ねるごとにその色は増しているように思うし、
それらしい甘い言葉は何一つ交わしていない二人だけれど、今回のどのセックスシーンも凄く萌えた。
谷崎さんの力量なのだろうか。絶対的な温かさとか、愛とか、そういうものを感じる。
進藤を抱きしめる富樫のやさしさが胸に沁みた。誰にも何が正しいかなんてわかっていなくて、
進藤はさめや槙原に赦しを求めていたけれど、でも本当はどこかで富樫のように自分の根底を揺るがすような真の理解者を、
共に罪を共有出来る誰かを探し求めていた(でも自分は認めたくはないけれど)のかもしれないなぁと思った。
進藤のそういう年相応ではない芯の強さが、愛しくも儚くて、切なかった。
Beauty J-POP-EMI EDITION-
コロムビア、BMG、ビクター、東芝の4社合同でリリースされる「女性」というユルーイくくりで集めた企画CD。
他社のは、玉石混淆とも言えない作りですが、この東芝版は、有名曲とコンピだから聞いて欲しい、という曲をうまくバランスよく織り交ぜているような気がします。特に、後半の具島直子さんは実力派として今でも好きな人が多いし、フリーボも女性ボーカルのロックバンドとして貴重な存在でした。前半のパティ、麻生小百合さんもセレクトに努力がみられます。どうせならそういう曲ばかりでもいいかな、と思いました。
「探偵物語」「愛情物語」なんてこれで聞きたい、という人おそらくほとんどいませんから。
Otome continue Vol.4
この雑誌のコアなファンには申し訳ありませんが、木皿泉さんの対談を読むためだけに購入しました。
対談相手の羽海野チカさんについては名前を存じ上げているだけです(これからしばらくして、『ハチミツとクローバー』を読みました)。
話の中心は、木皿さんがこれまでに書いてきたドラマです。近作の『Q10』に関する話が多いですが、『すいか』などほかのドラマのことにも触れられています。ドラマのプロデューサーとのやり取りなどについても書かれており、ドラマの脚本がどのように作られていくかが分かります。『すいか』と以降の作品にある微妙な「差」を理解するのにも役立ちます。
なお、ご存知の方もおられるでしょうが、木皿さんは夫婦二人のペンネームです。この対談では、それぞれ仲間内で呼ばれるニックネームでお話しをされていますので、実際は鼎談になっています。
追記
対談だけを読んで上記のレビューを書いたのですが、対談とは別にプロデューサーの河野英裕さんのインタビューも掲載されています。お二人(三人)が、『すいか』以降、ドラマを作るためにいかに苦闘してきたのかがよく分かります。また、プロデューサー主導によるドラマ制作ばかりになる弊害に関する発言には本当に共感しました。
真音〈3〉 (リンクスロマンス)
雑誌掲載分のラストに大幅加筆の入った最終巻。物語としてはきれいに着地した。新藤と富樫の絆は深まり、それぞれが新しい道を歩き出した。それについては、とても良かったと思う。心の機微を描いて読ませる力は谷崎さんの大きな魅力だ。
ただ、どうしても気になることがある。それは新藤の背負っている過去だ。彼がほんとうに罪を犯してそれを償うという話なら贖罪がテーマになるが、この場合、どう説明されても釈然としない。そもそも新藤がそういう行動をするほどの価値が奥田にあるのか?そして過去に何も背負おうとしなかった奥田が、そんなにすんなりと態度を改めるだろうか?富樫の過去も、ひとつのエピソードとして扱うには重過ぎる過去だ。人が死ぬということの重さをセリフだけではなくて、きちんと描いた上でないと、どんなに丁寧に積み上げた話も絵空事になってしまう。 『ラスト・テロリスト』もそうだったが、何か深刻な出来事があって、その周辺でお話がすすむ。同人誌的な作り方だ。できれば一度、直球ど真ん中の話を書いてほしい。それが力になると思うので。