ダック・コール
おかしな名の小説に魅かれてしまった。鴨を呼ぶ笛は6つの物語を呼ぶ。どれも
現代人が忘れてしまった自然に近い人物が登場する。現在のアウトドア人間を超えている。
真に自然に分け入った人をモチーフに、話が進む。自然をこよなく愛する人は、ぞくぞく
するのではないか。
ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)
第4回山本周五郎賞に輝く本書は、
惜しまれつつ1994年に逝去した著者の
数少ない作品の中でも、特に名品の誉れ高い作品です。
【プロローグ】
会社を辞め、気ままな一人旅をする「ぼく」は、
拾った石に鳥を描くことを趣味としている
不思議な男と出会います。
その夜、「ぼく」は6つの夢を見ることに…。
その6つの夢が、6つの短編として、
本書に収められているのですが、
すべてに「鳥」が関わってきます。
そして、鳥をテーマに描かれるのは、誇り高き男の生き様。
探偵も殺人事件も出てきませんが、
これは紛れもなきハードボイルド小説です。
静かだけれど、緻密で美しい文章に思わず引き込まれてしまう、
貴重な読書体験保証付きの名品がここにあります。
以下、6つの短編の短文での紹介です。
【第1話 望遠】
映画のラスト・シーンである夜明けの風景の撮影を任された若者。
1年に一度しか撮れないその瞬間を迎えた時、
目の前に幻の鳥が飛翔する…。
【第2話 パッセンジャー】
アパラチア山脈を挟んだ隣村に近づいたサム。
猟銃を手にした彼の上空に、
空を覆い尽くさんばかりのハトの大群が現れ…。
【第3話 密猟志願】
癌で早期退職した男は、狩りの上手な少年と出会うが…。
中年男と少年の交流と冒険。
【第4話 ホイッパーウィル】
脱獄犯を保安官とともに追いかけることとなったケン。
脱獄犯の一人が追い詰められる中、
思いがけない行動を起こす。
【第5話 波の枕】
漁船の事故で海に投げ出された源三青年は、
ある偶然で命を長らえることに…。
【第6話 デコイとブンタ】
密漁者に捨てられたデコイを拾った、
少年ブンタの小さな冒険物語。
本書に対して既に掲載されているレビューは、すべて★5つ。
こんな作品も珍しいです。
素晴らしい作品を残してくれた作者に敬意を表して、
私も★5つを付けることとします。