西太后―大清帝国最後の光芒 (中公新書)
好事家と共産中国の操作によって「悪の権化」「清を滅ぼした贅沢劣女」といったイメージをつけられた西太后だが、本書はそういったエログロな先入観を排除して、いったい実際の西太后はどういった人物だったのかを考察している。多くの資料を丹念に研究し、中国の歴代王朝は大まかに漢、満、蒙(モンゴル)が順番に政権をとってきたこと、ひとつの王朝の平均寿命は総じて200年前後であることをあげて、西太后が政権をとったときは、既に清朝は瀕死状態であったこと、いつ滅んでもおかしくない疲弊した王朝の寿命を、むしろ西太后が50年長引かせたのである、という解釈に及んでいる。人間としての西太后の長所短所、および政治家としての長所と欠点も平等に考察し、非常に中立的な読みやすい文章で書いている。西太后をとりまく皇族たちや官僚たちの思惑も、漢、満、蒙の3民族の構図になぞらえて説明しており、どの人物の考えも人間味あふれていて共感しやすい。
著者の妻は中国人で、生粋の漢民族であるという。著書内では、現代の共産中国が諸々の事情で触れることのない民族的歴史にもチクリと触れている。全体的に内容の濃い、興味をかきたてられる良質な一作である。
蒼穹の昴(2) (講談社文庫)
地主の次男、梁文秀(史了)とその地の貧民の子、李春雲(春児)。
科挙登第を経て国政を担うこととなる史了と、宦官という
方法で内廷のトップまで上り詰めた春児。
二人の男(!?)を通して、清代末期西太后が実権を握っていた
王朝内部の動乱とそれにかかわる人々の思惑を描いた
壮大な歴史小説。
読み進めていく中で感じたのは、日本の幕末との
共通性。もちろん、時間的共通性もあるんだけど、
欧米列強のプレッシャーを受けながら、従来の
権威をいかに保つかという苦心と、国を存続させるためには
改革を進めなければという維新の思いとのせめぎ合い。
違いは、日本が明治維新という中からの改革で国体変化を
成し遂げたということと、日本が列強の側に加わってきたと
いうことか。やっぱり中国は大きな国過ぎて、紫禁城の
中にいては危機感が伝わってこないのか。
現代の中国も変革が必要な時期に来ていると思うけど、
そこはやっぱり歴史を学んで、中から変わっていって
もらわないと。「党」という「王朝」も絶対ではないのだから。
結局、4月の北京旅行前に読むことは出来ず、旅行の
帰りから読み始めたこの本。途中で出てくる地名だとか、
建物の名前は、実際行ったことで具体的にイメージしながら
読めました。そういった意味では、行ってから読んで
よかったのかなと思いますが、読み進めるにしたがって、
あっ、ここも行ってみたかったななんて思うところも
また出てきたりして。
なので、来月の休みのときにまた北京に行ってみようかと
思ってみたりもして。
蒼穹の昴 DVD-BOX 2
DVD−BOX1に続いてレビューを書かせて頂きます。
このBOX2には☆5つをつけさせて頂きました。理由を申し上げます。
エンディングに、非常に感銘を受けたからです。
小説はさらに複雑な人間関係や、ドラマとは全く違う部分がありましたので「どういう風に終わるのだろう?」と興味深く観ていました。が!・・・ああいう風に終わらせたのか!・・・と、やはり監督汪俊氏の作り方に本当に感銘を受けました。(あえてここでは申し上げません)
また、梁文秀の賢妻・青'の死や、その後文秀がミセス・チャンやトーマス・バートンの助けを得て日本に出立するところなど、非常に見ごたえがありました。また、田中隆三さん演じられた柴五郎とミセスチャンの会見シーン(彼女は流暢に日本語を理解できるのに、柴大佐の前では知らないふりをしたところ)や平田満さん演じられた伊藤博文の登場シーンんは重みがありました。欲を言ったら、もう少し田中さんや平田さんの演技が見たかったな(苦笑)。
あとは、特典映像や、ブックレットの充実を希望致します。
珍妃の井戸 (講談社文庫)
義和団の騒乱のさなか、紫禁城で皇帝の寵妃が井戸に投げ込まれ殺された事件があった。
それを知った日英独露の高官4人が犯人を突き止めようと、事件の当事者達に話を聞いてまわるが……。
推理の謎解きの展開と、歴史小説の面白さをあわせもった筋立てです。
日英独露の貴族である高官たちがそれぞれの正義を胸に調査をはじめるのですが、当事者達の話を聞くにつれ当初の推理からは大きく離れていきます。
調査をする貴人達のほか、話をする紫禁城の関係者達のそれぞれの立場からの発言が興味深く、話の合間に描かれる清王朝の風俗が生き生きと華麗な姿に描かれていて趣深いお話になっています。
重々しい後宮にあって仰々しく高官たちを呼び寄せた瑾妃が側近が去ると一挙に砕けておしゃべりをはじめたり、
帝国大学教授の小柄でやせっぽちの松平が剣の達人であったりと、
ハッとする展開をおりまぜてあり興味深く読みました。
とても面白かったです。
蒼穹の昴 DVD-BOX 1
BSで「日本語字幕版」を観て、今総合で「日本語吹き替え」を観ています。
一番嬉しかったのは、吹き替えをして下さる声優さんの声がオリジナルとあっている!ことかな〜♪
正直、春児(ちゅんる)、梁文秀、ミセス・チャン、光緒帝の声がオリジナルのイメージと合ってなかったら!?という、不安が非常に大きかったので、日本語字幕版を観ていた時と、そう違和感無く観ております。逆に、日本語字幕の時は最初違和感があった(ごめんなさいね)西太后演じる田中裕子さんの声を日本語吹き替え版では心ゆくまで楽しめ、とても満足です。
特に先々週から春児が落ちぶれた宦官たちの住む富貴寺を出て、いよいよ紫禁城に宦官として出て行くときの師匠(黒牡丹や安徳海)との別れは、じーんと涙ぐんでしまいました。黒牡丹も安徳海も小説より、より温かく人間味がある人物として描かれているのが非常に好ましいです。特に黒牡丹が春児の腕を揉んでやるシーンには涙しました。これは小説では味わえない醍醐味です。この作品の監督をなさった汪俊氏の「撮影では7キロ痩せた」とお話しされていた苦労が偲ばれます。今でも小説よりどの人物も温かく描かれすぎて、苦笑してしまうことが多いのですが、小説は小説、ドラマはドラマと割り切って楽しめます。
監督の汪俊氏に心からの拍手をお送りいたします。
では、何故☆4つか。
うーん・・・・やはり、値段の高さかなあ・・・。決して内容は負けていないと思うのですが、下手に中国語を学んでいる為、中国で販売されるDVDの値段の安さを思うと・・・・と思っちゃうんです。ごめんなさいね。
後は・・・これは迷うところですが、小説で浅田氏は出来る限り中国人名を載せておられます。それを読んだ為か、中国人名を日本名で発音したり、そのまま中国名で発音されたりしているのが、個人的には混乱し、違和感を感じました。特に春児を「ちゅんる」と中国名で呼んでいながら、彼の京劇の師匠黒牡丹を「くろぼたん」と日本名で呼んでいる不統一さ。私の頭では「黒牡丹=へいむーたん」がインプットされていたので、この点でもやはり☆4つです。
けれど、これはやはり掛け値なしに、素晴らしい日中合同製作作品だと思います。
蛇足ですが、本日11月2日、西太后を演じられた田中裕子さんが、紫綬褒章を受けられたことをニュースで嬉しく聞きました。
心からのお祝いを申し上げます。